ジュリアーノ・ジェンマ
Nullo Bronzi
企業の利潤追求の犠牲になってひき裂かれた痛ましい男女の愛を描く。製作はジャンニ・ヘクト・ルカリ、監督は「天使の詩」のルイジ・コメンチーニ、脚本はコメンチーニとウーゴ・ピッロの共同、撮影はルイジ・クヴェイレル、音楽はカルロ・ルスティケリが各々担当。出演はジュリアーノ・ジェンマ、ステファニア・サンドレッリ、ブリツィオ・モンティナーロ、レナート・スカルパ、チェージラ・アビアティなど。
ヌッロ(ジュリアーノ・ジェンマ)が、同じ工場に働くカルメラ(ステファニア・サンドレッリ)と知り合ったのはふとした偶然からだった。終業後、カルメラを見かけたヌッロは、彼女をアパートまで送っていった。カルメラはシチリア生まれで、父亡きあと出稼ぎにやってきたのだった。うんとお金をためて、太陽に輝く故郷シチリアに帰って土地の人と結婚しよう。それがカルメラの夢だった。ヌッロに送られて古びたアパートの前に立ちどまったカルメラは、突然脅えたようにあたりを見廻した。“シチリア人の女は、よそ者の男と絶対つき合ってはならない。もしそんな男が現れたら俺が殺してやる”。常にこういっている兄パスクワーレ(ブリツィオ・モンティナーロ)の言葉を、思い出したのだ。しかし、カルメラは今、その言葉を忘れるかのような、胸のときめきを覚えていた。彼女は、誠実でやさしいヌッロに既に恋していたのだ。ヌッロもまた初々しいカルメラを愛し始めていた。ヌッロは毎日、勤務が終るとオートバイでカルメラを待った。だが人眼を気にするカルメラは彼を避けた。カルメラの心には、ヌッロへの愛がつのればつのるほど、兄の言葉が強迫観念となってくるのだ。そうしたある日、カルメラは家族の留守を見計らい、ヌッロを家に呼んだ。兄に防げられ日曜日でさえ外出できないカルメラが恋人に逢うための、非常手段だった。二人は激しく抱き合い、唇を合わせた。その夜、ヌッロは家族にカルメラと結婚することを告げた。しかし翌日、カルメラの顔面に無惨にも痛々しいアザが残っていた。ヌッロとの関係を知ったパスクワーレに殴られたのだ。数日後、カルメラが勤務中、突然倒れた。ヌッロは不吉な予感に襲われた。もしやこの工場のガスが……。事実工場では病人があいついだ。彼の予感は的中した。カルメラの身を案じるヌッロを、なぜかカルメラが避ける日が続いた。そしてある日、一通の手紙がヌッロに届いた。「明日、故郷に帰ります カルメラ」。驚いたヌッロは駅に走った。ホームにカルメラが淋しげに列車を待っていた。その夜、二人はうらぶれた安ホテルのベットで無言で向き合った。ヌッロは自分たちの愛を許そうとせぬシチリア人のあまりの無知な観念を怒り、カルメラは彼を愛しながらも老いた父母、弟たち、そして兄さえも見棄てるわけにはいかない運命に涙した。その日以来、彼女の姿は工場から消えた。探し求めるヌッロの前に、パスクワーレが立ちはだかった。ヌッロは彼女に会わせてくれるよう懇願したが無駄だった。やっとのことで再会すると、カルメラの病状は進み、立ち上ることも出来ない状態でアパートの隅に横たわっていた。ヌッロは彼女をやさしく毛布に包むと自分の家に向かった。もちろん花嫁としてだ。その夜、駆けつけた市長の前で二人は結婚式を挙げた。式が終わると、やがてカルメラは永遠の眠りについた。--翌朝、工場の広場には労働者たちのシュプレヒコールが響いていた。「殺人者は誰だ!」。群集の中をヌッロは、会社の入口に向かった。黒いサングラスの社長が出てくると、ヌッロはピストルの引き金を引いた。
Nullo Bronzi
Carmela
Pasquale
Dottore
Adalgisa
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