フレドリック・ベクレン
Hugo
緑したたるスウェーデンの田園を背景に、詩的に描く子供の世界。監督はシェル・グレーデ、マリア・グリーペの原作を、彼女自身とシェル・グレーデが脚色。撮影は「慕情のひと」のラース・ビヨルネ、音楽はトルビョルン・ルンドクイストがそれぞれ担当。出演はフレドリック・ベクレン、マリー・エーマン、ベッペ・ウォルゲルスなど。
牧師のパパは説教の下調べ、ママは用事に忙しい。こうして幼ないジョセフィン(M・エーマン)は、いつもひとりぼっちだった。ある日の午後、そのジョセフィンの家へ、ギュードマソン(B・ボルゲシュ)という庭師が雇われて来た。ヒゲもぢゃの、ちょっぴりこわそうだが、時折りみせる優しげな表情が、孤独なジョセフィンの心をとらえた。その日から、彼女はギュードマソンの姿を、いつも追っていた。やがて、その彼のところへ、仲良しの少年が遊びにくるようになった。少年の名はユーゴ(F・ベクレン)。楽しげにふざけあう二人を見てジョセフィンはいつもうらやましげなまなざしをむけるのだった。いよいよ小学校入学式の当日。ジョセフィンはユーゴに会えるという淡い期待を抱いていたが、彼は姿を見せなかった。ところが翌日、学校に姿を見せたユーゴと、ジョセフインは一番の仲良しになってしまった。ユーゴは森のはずれの掘立て小屋で、使いはしりなどをしながら、一人で暮していた。彼の父親は徴兵拒否で監獄にいるとのことだった。ある日、二人はジョセフィンの提案で、廃屋の工場にある自転車に乗りに行くことにした。自分の倍くらいの高さの自転車を見つけたユーゴは、光輝く草原を夢中で走り回り、ジョセフィンのことを忘れてしまった。ひとり、とり残され、さみしげに家路に向うジョセフィンを、ギュードマソンがやさしくなぐさめてくれた。自転車遊びの日以来、ユーゴはしばらく姿を見せなかったが、またジョセフィンとギュードマソンの前に、元気な姿を現わした。帰って来たユーゴと、再び仲良しになったジョセフィンは、毎日を明るく、楽しくすごした。しかし、楽しい日は長くは続かなかった。ギュードマソンが家を出る決心をした。ユーゴの父親がもうじき戻ってくるので、自分はもう必要ないと言うのだ。こっそり出発しようとした彼を、子供たちは追いかけて、道をふさいだ。困ったような微笑を浮べながら、ギュードマソンは車から長椅子とエーブルを降した。くれなずむ草原に小さな部屋が出きた。そこで、ギュードマソンは二人に、ひとつの話を聞かせ、二人をさとした。語りおえた彼は、「また会おうね」と呼びかける二人に、「行くよ」と答えたまま、流れる涙もぬぐわずに車を走らせた。見送くるユーゴとジョセフィンの瞳に、夕闇に吸いこまれて行く車が、いつまでもうつっていた。
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