マッツ・オルフェルト
Mats Peter
自分の世界にとじこもるマッツ坊やと家政婦アンナの心の交流を描く。製作はヨーラン・リンドグレン、監督はヤール・キューレ、撮影はルネ・エリクソン、音楽はチェル・ニクラソン、ペール・ペールソン、編集はカール・オロ・スケップステッドが各々担当。出演はマッツ・オルフェルト、アンヌ・ノルド、ヤール・キューレ、マルガレータ・クルーク、アラン・エドヴァルなど。
内務大臣の父(J・キューレ)と著名な小児科医の母(M・クルーク)という多忙な両親をもつ四歳のマッツ(M・オルフェルト)は、家事を手伝っている若い娘ネンナ(A・ノルド)だけに親しみを感じた。姉のように感じるネンナが話してくれた、インドの風習で妻が夫に先立たれると、焼身自殺をするという話はマッツの心に強く焼きついた。晴れた日には、二人でぬけるような青空の下、緑が清々しい野原で野いちごをつんだり、家のすぐ近くの海辺で裸でじゃれたり競泳したりした。そんなある日、二人は嵐の前ぶれであるかのように、鉛色の雲がどんより垂れ込めた不気味なうなりをあげる海岸へでかけた。そこでは、町の腕白少年たちが無謀にもヨットを走らせようとしていた。ネンナはひきとめたが、いたずら盛りの少年にはネンナの説得も馬の耳に念仏だった。ヨットの姿が鉛色海に消え、波は大きくなるばかりだった。ヨットが大きく傾むいた時、ネンナは夢中で海に飛び込んだ。しかし、ヨットまで泳ぎついた時には力がつきていた。事の重大さを知った少年たちは恐れをなして逃げだし、マッツはネンナの服をしっかりと抱いていた。翌朝、新聞には少年とネンナの死を告げる記事が載っていた。新聞記者たちは彼女の勇気ある行動を取材しようとマッツの家に殺到した。両親は取材に協力するようマッツに進めたが、彼はいつかきっとネンナが帰ってくることを信じ、かたくなに拒んだ。マッツはネンナが眠っているという死体安置所へこっそりでかけた。マッツの期待はもろくも崩れ、悲しみがあふれた。彼は片手に握っていたマッチに火をつけた。いつか彼女に聞いたインドの風習を思いだしたのだが、それも失敗に終った。ネンナを失ったマッツの悲しみは深く、彼女がマッツの生活の中に占めていた場所を両親が代ってやることは不可能だった。数カ月後、両親は発展途上国家の進歩につくすため、外国へいくことに決ったが、マッツは同行を拒んだ。それは彼のささやかな自立だった。
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