アナトリー・ソロニーツィン
Andrei Rublyov
ロシア美術史上、不世出の天才画家として有名なアンドレイ・ルブリョフの波欄に充ちた生涯を描く。監督は「僕の村は戦場だった」のアンドレイ・タルコフスキー、脚本はタルコフスキーとアンドレイ・ミハルコフ・コンチャロフスキー、撮影はワジーム・ユーソフ、美術はエウゲニー・チェルニャーエフ、音楽はビャチェスラフ・オフチンニコフが各々担当。出演はアナトリー・ソロニーツィン、イワン・ラピコフ、ニコライ・グリニコ、ニコライ・セルゲニフ、ニコライ・ブルーリャーエフ、イルマ・ラウシュ、ユーリー・ナザーロフ、ローラン・ブイコフなど。オリジナル版は205分。
〈第一部・動乱そして沈黙〉一四〇〇年。降りしきる雨の中、三人の僧侶が田舎道を急いでいた。アンドレイ・ルブリョフ(A・ソロニーツィン)とキリール(I・ラピコフ)とダリール(N・グリニコ)は、モスクワのアンドロニコフ修道院の同じ僧房で神への奉仕と絵画の修業に十年近い歳月を過ごした研鑽の仲間たちである。三人は雨やどりで立ち寄った丸太小屋で陽気な旅芸人が、富裕階級の聖職者の道徳的廃退を面白おかしい物語にして歌い踊るのを見たが、途中で一度キリールが小屋から姿を消した理由をアンドレイもダリールもそのときは気づかなかった。いきなり三人の騎兵隊がきて旅芸人をムリヤリ連れ去ったのはその直後のことだった。支配階級への民衆のささやかな抗議はいつもこのようにして圧殺されていたのだ。一四〇五年。ある旅の途中で、キリールはフェオファン・グレク(N・セルゲエフ)に出会った。乞食坊主のような風態ながら、この男こそ国にならぶ者なきイコン(聖像画)の名匠だ。自分の画才がアンドレイにはるかに及ばぬことを知っているキリールはフェオファンに取り入りモスクワの寺院にイコンを描く仕事をもらうとそのための大公からの招請状を自分にあて修道院へ届けてほしいこと、それもアンドレイの見ている前で自分に手渡してほしいことを約束させたが、意外にも大公から届いた招請状はアンドレイあてであった。賢明なフェオファンはいち早くキリールの魂胆を見抜いたのだ。落胆と憤懣からキリールは逆にアンドレイを出世欲のかたまりと決めつけ、宗教界の堕落を罵って、僧職を捨て俗界へ飛び出してしまった。一四〇六年。モスクワでのアンドレイの新しい生活が始まった。弟子たちの協力を得て彼は連日寺院の白い壁に向かったが、絵筆は一向に進まなかった。ペストがはびこり、飢饉がうち続き、民衆が年貢の高さに苦しめられながらしかもなお、無為な生活に甘んじているという現在の暗黒世界は早く終わらねばならない、そして人間は自分たちの力で地上に幸福を作りださねばならない--そう信じているアンドレイには、たとえ「最後の審判」を壁画にするにしても、今までのように古い伝統をそのままなぞってキリストや使徒たちの周囲に地獄の釜ゆでの残酷な光景や悪魔の恐しさをただ毒々しく彩って描くことが耐えられなかった。彼が描きたいのは“愛”であった。忍耐と寛容に充ちた神の愛なのであった。 〈第二部・試練そして復活〉一四〇八年。タタール人の突然の襲来はその頃であった。大公と公弟の争いに端を発したこの襲撃はロシア国内を地獄図に変貌させ、塁々たる屍の山を築き上げ、寺院をも血の海にして火を放った。殺戮の嵐が通りすぎたあと、生きて堂内に残ったのはアンドレイと彼が助けた知的障害者の少女(I・ラウシュ)とフェオファンだけだった。アンドレイが絵筆を捨てる決意をしたのは、その日である。少女の生命を救うためにせよ人をひとり殺してしまったことが彼の心をさいなんだからだが、理由はそれだけではなかった。同じロシアの土地で同じ信仰のもとに生きる者同志がなぜこのような殺し合いをせねばならないのか?もはや彼は人を信ずることが出来ず、ただ労働に生きる決意をかため、アンドロニコフ修道院へ戻っていった。一四一二年。大飢饉が三年も続き、長い冬はいつまでも終わろうとしない。そんなある日、キリールが修道院へ戻ってきた。彼はかつての醜い出世欲とも無縁の人間になっていたが、旧交が戻った彼の前でも相変わらずアンドレイは言葉を知らぬ者のように無言の行を守り続けていた。一四二三年。ロシアはなお暗黒の中にあったが、その底に秘めた生命力を諸外国に示威するため、大公は教会の頂きに飾る巨大な鐘の鋳造を技術者たちに命じた。しかしその鋳造の名人と言われた男はすでに死んでいて、そのひとり息子ボリースカ(N・ブルリャーエフ)が生前に父から秘訣を教えられたと主張するのを半信半疑ながら、彼をリーダーに、ともかく作業が開始された。まず最良質の粘土さがしから始まり、それを固めて作り上げた鐘の鋳型に、これまた彼ら自身の力で築いた溶鉱炉から銅を流し込むまで、技術者たちの不眠不休の努力は、まさに生命をけずる凄まじさで、ことにボリースカの創造への情熱は狂気じみて凄絶だった。その少年の姿を沈黙のうちに見守るアンドレイの瞳にも感動の色はかくせなかった。ようやく完成した大鐘が各国からの使節団の前で、ロシアの大空に高らかな音を鳴り響かせたあと、大地につっ伏して号泣する少年にアンドレイは初めて近寄った。「父が鋳造の秘訣を教えてくれたなどといったのはウソだった。ただ鐘を自分で作りたくて……」。無邪気な少年にかえって泣きじゃくるボリースカを抱き寄せて、アンドレイはやさしくいった。「泣くことはない。お前は立派にやりとげたではないか。私はもう一度絵筆をとってお前と一緒にやっていこう」。十五年ぶりに彼の口から出た言葉だった。古代ロシア美術史の今も燦然と輝くイコン美術の巨匠アンドレイ・ルブリョフの偉大な画業への出発は、実にこの瞬間から始まったのであった。
Andrei Rublyov
Kirill
Danil
Feofan
Boriska
A half-witted girl
The Grand Duke
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