ホン・ドゥク
Cu Tyn Rahn
「ベトナムの少女」「トーハウ ベトナムの若い母」「キム・ドン」につづく戦火いまだに消えぬ北ベトナム映画である。フランスのベトナム再侵略に反抗したべトミンの一人、青年クー・チン・ランの実話を映画化した反戦とヒューマニズムにあふれる作品である。スタッフ・キャスト共になじみは薄いが、北ベトナム作品四本目の長編映画となると、現在の同国の映画製作の実態、水準を知るために好材料となるだろう。
一九九一年秋。フランス帝国主義の再侵略に抗して、祖国の解放と独立をめざすベトナム人民の戦いは、ゲリラ戦から正視軍の決戦の段階に入ろうとしていた。軍学校を卒業したばかりのクー・チー・ラン(ホン・ドゥク)が前戦に到着したのは、その頃であった。最初は、炊事係等をいいつけられ反帝、反フランスの情熱に燃えるランをがっかりさせたが炊事係の期間はそんなに長くなかった。すなわち、フランスの猛攻撃が始ったのだ。そして戦線はいつ果てることなく長く続きともすれば戦士の気持は荒んでいった。そんな戦士を見るにつけランは力強く戦争に勝たなければ輝かし社会主義はやってこぬと彼等の士気を鼓舞するのだった。一方、ランたちの宿舎は美しい村娘トアンの家だった。たちまちトアンは誠実で献身的な若いランに魅きつけられた。そんなある日部隊は最前戦に出発した。その夜、ランの手紙をトアンが読んでいる時、敵機が村を空襲し、彼女の家も廃虚になった。一方、ランの班の活躍はめざましくフランス軍はしだいに退っていった。しかしそれはみせかけにすぎずたちまちフランス軍の反撃が突然始まった。フランス軍はランたちが目にしたことのないありとあらゆる近代兵器で攻撃してきたのだ。なかでも米国製の戦車の威力は絶大で、ベトナム軍につぎつぎと犠牲者がでた。戦車を破壊しなくては勝目はない。そう思うやランは、戦車攻撃を大隊長に志願した。戦車に人間がぶつかっていってもとうてい勝てるものではない。仲間は次々と倒れていった。しかしランは傷つきながらも何度も何度も手りゅう弾を片手に戦車に向かっていった。そしてランの執念はついに砲塔によじのぼることに成功、下から出たフランス兵の挙銃がランを狙う寸前ランの手りゅう弾は天蓋にすべりこんだ。手りゅう弾の爆発音、戦車は破壊された。しかしランも自から傷ついてしまった。野戦病院に送られたランが息を引きとる寸前、志願輸送隊員として前線にいたトアンの温い手がランの手を強く握りしめていた。
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