ヴェルナー・クラウス
Hjalmar Ekdal
ヘンリック・イブセンの社会劇として有名な「野鴨」に基いてF・カールセン氏とループ・ピック氏とが書き卸した脚本により、「除夜の悲劇」と同じくループ・ピック氏が監督したものである。「プラーグの大学生(1926)」「タルチュフ」等出演のヴェルナー・クラウス氏、「マリア・マグダレナ」「タルチュフ」のルチー・ヘーフリッヒ嬢、「吹雪の夜」のマリー・ヨンソン嬢、「白痴(1921)」のワルター・ヤンセン氏、「ゴーレム」のアルバート・シュタインリュック氏、「パッション(1919)」のエドゥアルト・フォン・ヴィンターシュタイン氏、「幽魂は語る」のアグネス・シュトラウブ嬢など腕利きの人達が共演している。無声。
野鴨はエクダル一家の運命の象徴となっているばかりでなく、全篇の悲喜劇の根本動機を形づくっている。野鴨は大商人のウェルレに捕えられ、彼からヘドウィックという少女に与えられた。少女は野鴨を命に代えても愛す様になり、己が家の屋根裏の物置に人工的な小森林を作ってそれを飼う事となった。やがて野鴨は次第にその境遇に馴れ家畜らしくなって、何時か外の自由な空気を忘れる様になった。この野鴨と同じ様な径路にあるのがかつては猟好きな奔放の男であったが、今はもうすっかり老衰して例の人工的な小森林で南京兎を撃っては熊を撃つ幻想に酔っているヘドウィックの祖父老エクダルである。また息子のヤルマルも、かつての元気を失って今では父を陥れたウェルレの世話でその家の女中頭ギナと結婚して平凡な男になり下っている。そしてヘドウィックにとってはヤルマルは神の様に思われ、ヤルマルの大言壮語は彼女の心を支配していた。唯このエクダル一家で現実的に真黒になって働いているのはギナ一人である。そしてこの家庭は幸福であり、また沈滞していた。がこの空気を動揺させる二人の男が現れるのである。一人は楽天家の医師レリンクであり、一人はウェルレの息子で厭世家のグレーゲルスである。レリンクは虚偽を真実と思わせるのが彼らを幸福にさせて置く所以と考えている。がグレーゲルスは一切の虚偽を摘発する事が真の幸福であると信じている。その結果、ヤルマルは妻の秘密を知った。ヘドウィックはウェルレの落胤である事が判る。そしてヤルマルは煩悶する。でも妻を離別する事が出来ない。が一方ヘドウィックは父ヤルマルの態度が急に変ったのを悲しんで可愛い野鴨を犠牲にして父の愛を取戻そうとする。しかもその後にヤルマルが真の親でないのを知って思い詰めた末、ピストルで自殺してしまう。真理の探求は決して人生に幸福をもたらすものであろうか?
Hjalmar Ekdal
Gina his wife
Hedwig his daughter
Harald Ekdal
Jan Werle
Gregers his son
Dr.Relling
Movick
Mrs. Sovby
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