江麗々
張小娥
中国河南、山西の一帯山高く広野限りなく展け大自然に恵まれる地方の或る町に張という若者が母とともに貧しく暮らしていた。張は性来武芸を好み暇さえあれば腕を練っていた。ある日彼の家の前を騎馬の一隊が通りかかった。その中に一人の美少年がいたがそれを見た張の母は顔色をかえて内に入りさめざめと泣いた。張は心配して尋ねたが母はどうしてもその理由を話さない。その一隊は河南の鳳陽鎮という町の巡察隊で隊長は町長の左虎という強慾非道の人間であった。母は張が武芸をはげむのを見て大いに喜び一つの箱から鉄の鎖をとり出し早くこの鎖を使うことが出来る位いに強くなってくれという。張はその理由をたずねたが未だ言うべき時機でないと聞かせない。鳳陽鎮の町長左虎は巡察の途中、町の李家を訪れ李の娘新子が絶世の美人なることを発見して彼女を我物にせんと計画をめぐらす。ところが河南省大熊山の山奥の古寺に巣を張る馬賊の頭目凌壽もまた李家の娘新子の美人なることを知り或る晩部下を率いて李家に押入り娘を奪って山に引き上げた。新子の父李の歎きは一方でなくその夜自殺を計ろうとしたがその時通りかかった張はその理由を聞いて早速大熊山に乗り込み祝宴中の山賊共を襲ってついに頭目凌寿を倒し新子の危難を救い連れ帰った。李は大いに喜び白馬一頭を張に贈り厚くその労を謝した。張はそれを母に話したが母は喜ぶどころか反って張の軽挙を戒しめはじめて張には親の仇があることを打明けた。ここに於て張は左虎が自分の父親を鉄鎖で殺害し妹までも奪って行ったことを知ったのである。過ぐる日巡察隊にいた美少年こそはその妹であった。かくて左虎が仇敵と知れるや張は彼を討つ機会を窺っていたが或る日李の娘新子が左虎に奪われた時張は奮然立って左虎の城に乗り込んだ。そして激闘数刻の後首尾よく仇敵を亡して新子と妹とを救い引上げることが出来た。
[c]キネマ旬報社