リエン・ダイヤース
Annerl
「水泳女人国」のエリッヒ・ワシュネックがウィリー・フランクの脚本によって監督した映画。主役は「スピオーネ」のリエン・ダイヤース、「白魔」「ハンガリア狂想曲」のリル・ダゴファー、イゴー・シムの三人で、老喜劇役者として最近売出しのフェリックス・ブレサート、「最後の歌」のイダ・ヴュストが助演し「泣き笑ひの人生」「カラマゾフの兄弟」のフリーデル・ベーン・グルントが撮影している。
夕暗の漂うウィーンの町。もの哀しいボストンの曲の流れる蓄音機店の店先に十六のアンネルは夕顔の花のようにぽっかり浮かんでいた。ドアをあけて一人の若い客が入って来る。アンネルの顔に見入りながらいつまでも哀しいボストンの曲をきいている。やがて辺りの暗くなったのに驚いて数枚のレコードを買い求めて外に出た。街はいつか雨になっていた。ランゲル男爵は雨の日に見た夕顔の少女が忘れられない。要りもしないレコードを買ったり、少女の父親が内職にしている小鳥を買い集めたり、日曜日にはアンネルのやる人形芝居を手伝ってやったり、そして二人は楽しかった。けれど男爵は間もなく外交官としてブタペストへ旅立たなくてはならない。哀しい別れの夜。アンネルの細い肩をしっかり抱いて彼は他の誰をも思うことなく直ぐに帰って来ると約束した。悲しさで一ぱいだった。併しブタペスト。華やかな灯と上等な酒。貴婦人。社交。--そして彼は年上の悩ましい伯爵婦人の愛撫をうけた。けれども忘れられないウィーンの町。なつかしいアンネル。男爵はウィーンに急いだ。美しい伯爵婦人は数多の男性に取り巻かれている身に何故かランゲン伯爵は初恋の感じだった。男爵からの知らせを轟く胸にうけてアイロンのよく利いた着物に着がえたアンネルは男爵の邸を訪れた。けれど、扉をあけたのはランゲルではなくて、美しいひとであった。先き廻りをして来た伯爵婦人だった。冷たい誇りやかな言葉の数々をきかされてアンネルは男爵の邸を出た。彼女の心は言いようのない悲しみに辞かれていた。そしてまぶしい自動車のヘッド・ライトにも気づかずあっと思う間に重いタイヤの下敷きになった。伯爵婦人は熱心な眼をしてランゲル男爵を迎える。だが、意外な所で意外な人を見た男爵の眼には愛情がなかった。そして--泣いて帰ったアンネルのことを伯爵婦人から聞かされた時、男爵の顔は夫人に対する憎悪でひき吊った。恋!併し美しい貴族の女にとっては「誇り」こそが最も強い本能なのだ。若い男爵の自分に対する憎しみとさげすみとを見せつけられた時、伯爵夫人の手はピストルの引き金を引いていた。憎い男の胸に。長く横たわった男爵の傍でけたたましく電話のベルが鳴った。全身包帯でおおわれて聖母のような姿をして死んでいったアンネルの死を告げる空しい電話のベルであった。
Annerl
Her Father
Baron Hans von Langen
His Mother
Countess Eggedy
The Doctor
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