イヴリン・レイ
Irela (Maggie O'Neil)
かつて「天国の一夜」に出演したイヴリン・レイが主演する音楽映画で「永遠の緑」「空襲と毒瓦欺」と同じくヴィクター・サヴィルが監督、「朱金昭」のミュッツ・グリーンバウムが撮影した。映画はエドワード・ノブロックとベヴァレーヴ・ニコルスとが合作した戯曲及びニコルス作の小説の二つに依拠したもので「異教徒」のドロシー・ファーナムが改作、「朱金昭」と同じくノブロックが台本並びに台詞を執筆した。助演者は「朱金昭」「カラマゾフの兄弟」のフリッツ・コルトナーを始めとし「花咲く頃」のカール・エスモンド、「永遠の緑」の脚色者であるエムリン・ウィリアムズ、舞台出のアリス・デリシア、スペイン生れの評判の歌姫コンチタ・スペルヴィア、等の人々。なおこの映画には「今宵こそは」のミッシャ・スポリアンスキーの作曲したものの外、オペラの歌曲が数種取入れられている。
アイルランドに生れたマギー・オニールは二十五の春、己れの持つ美しい声を育てるために父の反対を顧みず、同じ音楽家志望のジョージとともにパリに出て行った。そしてヴァルモン夫人の下でオペラを五年修業して天晴れの腕を磨いたが、この時、声楽家としての彼女の天分と天職とを確く認めたのはコーバーであった。で、コーバーは彼女の声を限りなく愛する余りに彼女に一生を捧げる事にしたが、同時にマギーにもあらゆる事を棄てて声楽家としての天職に専心する事を力説した。マギーは彼の勧めにより名もアイルランドにちなんでアイレーラと改めた。それと同時にジョージとの恋の生活は破れ、彼は姿を隠した。以後、アイレーラの道は一筋に上へと向いて進み一九一三年には彼女は既に世界的の名声を博していた。その時、彼女はエレンブルグと称する伯爵にモンテ・カルロ、ヴェニスと執拗につきまとわれ、やがて二人はヴェニスで恋の歓楽に酔った。だが、この伯爵こそは実はオーストリアの皇甥テオドールであったのだ。しかしテオドールはあくまでもアイレーラと結婚する意志であったところ、突如、欧州大戦が勃発し二人は引き離された。それからアイレーラは英軍の戦地で出征兵の慰安のために歌ったりしたが、その際彼女はジョージと久振りの再会をした。だがこのジョージも負傷し次いで病没した。以後アイレーラはオペラに専心し二十年の長い間、名声と地位を保っていたが、スペインの歌姫ババが現われて来た時には彼女も既に五十五才の老齢で、その声も衰えつつあった。そして、二人がボエームに共演した夕、ババの成功の前に彼女は敗北の恥辱を被った。コーバーは彼女に如何なる芸術家にも引退する時の来る事を説いたし、この夕、数年振りで彼女を訪れたテオドールが結婚を申込んだ時には、彼女の心も動き舞台を退く事を考えるに至った。だが、テオドールの求婚に彼女を憐れむ意のある事を知るや、アイレーラは結婚を拒絶した。そして二人の恋を美しい想出として残して置く事にし、かねて申出のあった南米への告別演奏契約に署名した。コーバーは再びその無謀に反対した。彼はアイレーラの内に芸術家が既に死んでいる事を知るからである。独り部屋に取残されたアイレーラは昔し彼女が吹込んだレコードに美しい想出と若い日の夢とを追ったが、それと共に失神してこの世を去った。悲しい歌の女王の最期であった。
Irela (Maggie O'Neil)
Kober
Madame Valmond
Archduke Theodore
George Murray
Tremlowe
Sovino
Pa O'Neil
Bob O'Neil
Solo Tenor
Baba
監督
脚本、原作、原作戯曲、作詞、台詞
原作戯曲
撮影
音楽監督
美術
製作進行
作曲
脚色
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