ジャン・ギャラン
Jack Stephen
ルネ・クレールの助監督をしていた前衛映画人の一人エドモン・T・グレヴィルが監督した作品で、脚本も自ら書卸した。但し台詞は「舞踏会の手帖」でデュヴィヴィエと協力した劇作家アンリ・ジャンソンが執筆している。主役は「熱風」「タムタム姫」のジャン・ギャランが演じ、「ミモザ館」「女だけの都」のフランソワーズ・ロゼー、「乙女の湖」「戦いの前夜」のロジーヌ・ドレアンが共演し、「リリオム」のロベール・アルヌー、「トト」のフェリックス・ウーダール「港の掠奪者」のポール・オリヴィエ、「赤ちゃん」のナーヌ・ジェルモン、モーリス・マイヨ等が助演している。音楽は「モンパルナスの夜」のジャック・ダラン、撮影はG・コッテュラが夫々担当した。
ジャック・ステファンはフランスで一二を争う映画監督であった。妥協を許さぬ性格と奔放な芸術家的気質を持って、帝王の如く撮影所に君臨した全世界に名声を謳われていた。気まぐれな彼は或日、撮影所の帰りに乗った乗合自動車で貧しい身なりの新鮮な美しい少女に逢って、彼女を誘って共に食事をした。映画女優志願の彼女に、名を秘した彼はジャック・ステファン宛の紹介状を書いて渡した。家へ帰ると毎夜の宴に若い男女が押し寄せて乱痴気騒ぎが始まる。ステファンはさっき別れた少女の顔を思い出すと、自分の周囲に集まって来る女達の毒々しい装いがたまらなくなって彼女等を追い帰してしまうのだった。翌朝撮影所を訪ねた少女は、昨日の男がジャック・ステファンである事に驚いたが、その日から彼女はリリー・ラヴと芸名を与えられ望み通り映画女優になった。リリーにメーキャップから教え込んだのはクララという中年の女優だった。昔はステファンとの情事を騒がれた事もあったろうが、今は色香もあせて喜劇女優としての名誉を細々と保っているのであった。リリーの第一回主演映画はステファンの監督で素晴らしい喝采を浴びた。中年になるまで未だ知らなかった情熱でリリーを愛したステファンは、クララを通じて結婚を申し込もうとしたが、リリーも世の常の女と同じ様に若い二枚目役者モリスと恋に堕ちていた。そして或日ステファンの前に現れた彼女は美しい黒髪さえブロンドに染めているのだった。間もなく彼女はドイツに招かれ、やがてハリウッドへ渡ったという。恋を失ったステファンは真実を求めようと、街に飢えたルンペンを見て「飢餓」と名付ける映画を作ったが、観客は生々しいこの映画を罵殺し、彼は忽ちにして昨日の地位を失った。豪華な邸宅も人手に渡り貧しい下宿を転々とする彼を慰めてくれるのはクララと、助監督のレオだけであった。寒い冬の夜、映画館の前で彼は落ちぶれたリリーと逢った。ハリウッドで失敗した彼女はスターの地位を失ったのである。その夜同じ運命の二人は始めてしみじみと抱き合ったが、リリーがクララやレオと力を合せて彼の為に新しい資本家を探した時、秘かに身を隠したステファンは場末の安宿で、一人毒を飲んでこの世を去った。
Jack Stephen
Lily Love
Clara
Leo
Le Producteur
Morr's
Le Commanditaire
La Vedette
La Soubrette
La Soubrette
La Soubrette
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