ルネ・サン・シール
Maric Martin
エクトル・ベルリオーズの伝記音楽映画で、ジャン・ピエール・フェイドーとアンリ・アンドレ・ルグランが協力して脚本を書きおろし「カルメン(1946)」「幻の馬」のクリスチャン・ジャックが監督したものである。主役ベルリオーズには「しのび泣き」「ジェニイの家」のジャン・ルイ・バローがふんし「厳窟王」「ミモザ館」のリーズ・ドラマール、「最後の億万長者」のルネ・サン・シール、「悪魔が夜来る」のジュール・ベリー、「赤ちゃん」のジルベール・ジル「最初の舞踏会」のベルナール・ブリエ、「生けるパスカル(1936)」のカトリーヌ・フォントネー等が共演する。音楽はベルリオーズ作曲の名曲をモーリス・ポール・ギーヨが指揮している。
一八三〇年、ロマンチスムの花が咲きにおうころ。エクトル・ベルリオーズは医学生としてパリに上京した。しかし彼には父が望む医道に進むことは堪えられぬ事だった。いつか音楽に心身を打込んで医学には遠ざかったので父親は送金しなくなってしまった。エクトルは親友アントワン・シャルボンネルと屋根うら部屋で同居し、パンと水で飢をしのぐ日さえあった。しかも彼の音楽熱と、オデオン座に出演中のイギリスの名女優アンリエット・スミソンにささげる恋愛熱は、冷めるどころか日ましに夜ごとに高まっていく。そのころマリー・マルタンという若い歌手が、ひそかにエクトル・ベルリオーズを慕っていたが、スミソンに夢中になっている彼には、マリーのつつましやかな愛情は通じなかった。マリーが愛したのは彼の烈しい音楽創作への愛情であったかも知れない。彼の妥協をゆるさない烈しい性格は人々に理解されなかった。肉身さえも見すててしまったので、彼は貧と病の二重苦に悩みながら作曲を続けた。そしてアンリエット・スミソンへささげる思慕に燃えて「幻想交響楽」を完成した。その情熱は遂にアンリエットの心を動かし、二人は結婚して愛児ルイが生れた。しかし幸福は短かった。ベルリオーズの音楽は当時の大衆には受入れられず、彼の曲は出版されることもなかった。女優としての盛りをすぎたアンリエットとは生活苦の家庭に飽きたらず、エクトルと衝突する日が多くなった。彼のオペラ「ベンベヌート・チェリーニ」の初演の夜、昔と変らず彼に思を寄せているマリー・マルタンと会ったベルリオーズは、温かいなぐさめを彼女から与えられた。それをしっとしたアンリオットはルイを連れて家出してしまった。孤独にたえかねたベルリオーズはヨーロッパに旅に出た。彼の音楽はフランスでよりも外国で理解され、ベルリオーズの名は外国で先ず高まり、ついにフランスのアカデミーも彼を迎えた。影のようにベルリオーズにつき添ってきたマリーも、愛する彼と共に平和な生活を営む日が来た。アンリエットが家出して十二年、成人したルイが父の名声をしたって訪ねて来た。母思いのルイは最初マリーと父の関係に不快を感じたが、ベルリオーズを崇敬する同じ感情は、いつか相通じてルイとマリーは和解した。かくて不遇だったベルリオーズにも、ようやく明るい幸福の日がおとずれた。しかし運命は残酷で、マリーは心臓を犯され、ベルリオーズからささげられた歌を歌いながら急死してしまった。絶望のどん底に沈んだベルリオーズは、またふるい立って「鎮魂曲」を完成し、不朽の名をさらに高く大きくしたのである。
Maric Martin
Henriette Smithson
Heetor Berlioz
Schlessinger
Charbonnel
監督
脚本、台詞
脚本、台詞
指揮
美術
作曲
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