エドウィジュ・フィエール
The Queen
「美女と野獣」と同じくジャン・コクートが脚本を書きおろし、自ら監督した一九四七年作品。撮影は「旅路の果て」「血の仮面」のクリスチァン・マトラが監督、音楽は「美女と野獣」「ルイ・ブラス」のジョルジュ・オーリックが作曲、美術監督は「美女と野獣」「ルイ・ブラス」のクリスチャン・ベラール、装置担当も同様ジョルジュ・ヴァケヴィッチである。主演は「しのび泣き」「フロウ氏の犯罪」のエドウィジュ・フィエールと「美女と野獣」「ルイ・ブラス」のジャン・マレーが、コクトオ原作の舞台劇と同じく顔を会わせる。助演は練達のジャン・ドビュクール及びジャック・ヴァレンヌ、舞台にも映画にも活躍しているシルヴィア・モンフォール「ルイ・ブラス」のジル・ケアン、エドワード・スターリング、アブダラー等である。
女王は絶世の美人の誉が高いけれども十年このかたベールに面を包んで、近衛の仕官達はもとより侍従のものもほとんど女王の面影に接した者はない。女王が愛するフレデリック王と結婚の祝典を挙げたのは、ちょうど十年前しかも密月を過そうとクランツの城へ赴く途中王は駅馬車の中で暗殺されたのである。それ以来十年、不思議に国民の信頼を得て覆面の女王は国を治めて来たのである。これを痛くも憎んだのは亡き王の母君の大公爵夫人である。彼女におもねって権勢を得ようとする警視総監フェーン伯爵は、秘密出版物を利用して女王を中傷するかたわら、偽の無政府主義者を買収して女王暗殺の機械をねらっている。若い熱心な無政府主義者のスタニスラスは、君主専政の封建制度を覆さんと考え、アヅラエルというペンネームで女王誹謗の詩を書き、フェーン伯一脈にそそのかされて、女王暗殺を志しているというのは、スタニスラスが故フレデリック王に生き写しの顔なので、女王に近ずかせる便宜になると思ったからである。女王が思いでのクランツの城へ行った夜、伯の命令で折からの雷雨の中を警察と犬に追われてスタニスラスはクランツ城の女王の部屋に飛込んだのである。その夜は女王が催した舞踏会の夜で、多くの客が招待されて来たが女王は侍女エディットを代理として出席させ、自らは部屋にとじこもった。亡夫が愛したワルツの音を聞きながら女王はあたかも故王と相対しているが如く盃を挙げ、亡き人に話かけているところへ、手傷を追って息も絶え絶えのスタニスラスが転げ込んで来たのである。女王は彼が何者であるか、その使命が何であるか知っている。彼こそは女王が十年間待ち望んでいた死の運命の使者なのである。彼女を愛する夫の許へ導いてくれる死の天使なのである。女王は死の天使を手厚く介抱する。この美しい女王をスタニスラスは殺す術を知らぬ。女王はエディットの代りに彼を「読書役」に任命する。こうして女王と故王に生写しの暗殺者との間に、不思議な愛が生れ、女王はエディットも侍従長フェリックス・ヴィレンシュタイン公爵もともに大公爵夫人のスパイであること、スタニスラスはフェーン伯爵に使われている人形にすぎないこと等、恐ろしい宮廷の実状を話し、自らの不幸を嘆ずる。女王が黒人の召使いをつれて朝の遠乗りに出掛けている間に伯爵はスタニスラスに使命を果せば自由を与えようという。一時に女王は帰京される。それまで待ってくれと彼は答える。女王が遠乗から帰ると毒薬入の指輪が見えない。城の前庭には供奉の近衛兵が既に勢ぞろいしている。毒を仰いだスタニスラスが女王に愛の言葉をもとめると、下野の分際で無礼であろう、下らぬとむち打つぞ、女王はうそをつくのがクレオパトラ以来の習わしじゃという。逆上した男は短剣を女王の背に突き立てる。殺してほしい故にののしった、私はそなたを愛する--女王はそういうと刺されたまま階段を上って窓辺から近衛の兵隊に敬礼を返し、はたと倒れる。スタニスラスは女王の許へと駆け上ったが毒が回って力尽き階段からころげ落ちて息絶える。
The Queen
Stanislas
Edith de Berg
Comte de Foehn
Felix de Willenstein
Rudy
Gentz
Toni
Adam's
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