マレーネ・ディートリッヒ
Blanche Ferrand
「淑女の求愛」「焔の女」「天使」のマルレーネ・ディートリッヒが「愛欲」「大いなる幻影」のジャン・ギャバンと顔を合わせる映画で、ピエール・ヴォルフの小説に基いて、作家のピエール・ヴェリが脚色して台詞を書き「六人の最後の者」「若き日」のジョルジュ・ラコンブが監督に当り、「しのび泣き」「悲恋」のロジェ・ユベールが撮影し、「ルイ・ブラス」のジョルジュ・ヴァケヴィッチが装置した。音楽はマルセル・ミルーズが作曲している。助演は「濁流(1947)」「望郷」のマルゴ・リオン、「悪魔が夜来る」「ルイ・ブラス」のマルセル・エラン、「悲恋」「ラ・ボエーム」のジャン・ディード、新顔のダニエル・ジュラン、「六人の最後の者」のリュシアン・ナット、マルセル・アンドレ、ジャン・ダルカント等。
フランスの地方によくある小都市の一つクレールヴァルであったことである。第二次大戦の起る前、一九三五年ごろだった。この町で小鳥屋の店を開いているブランシュ・フェランという後家さんがあった。男好きのする美人の彼女はある晩レスリングを見物に行ってマルタン・ルウマニャックと知合った。マルタンは石工からたたきあげた建築請負師で、姉のジャンヌと二人暮しの独身男だ。ブランシュは三年前にオーストラリアから来た世なれた女だが男らしい職人気質のマルタンに好意を持った。マルタンは夢中になった。彼女にしゃれた家を建ててやった。買い物にパリまで一緒に行った。田舎者の彼には都の夜の歓楽はむしろ苦手であった。クレールヴァルに帰ると、マルタンは早く結婚したいと思ったが、思いがけずブランシュの友達であった領事が現れた。この金持の紳士は妻が死んだのでやもめのブランシュを訪ねて来たのであった。姪に寄食している怠け者のブランシュ伯父は、マルタンよりも領事と姪が結婚することを望んだ。二人の男をはかりにかけてブランシュは迷った。マルタンはしっとに燃えた。そして領事をののしった。領事はパリへ去った。うわさ好きの田舎のうるささにいや気がさして、ブランシュもパリへ行こうとした。領事の後を追って行くのだと誤解して、しっとに狂ったマルタンは怒り猛って無我夢中で女を絞め殺してしまった。我に返ると女の息は絶えていた。ちょうど昼食時で、知人にも会わず、帰宅した、彼は姉にすべてを告白した。弟が死刑になっては困るのでジャンヌはアルバイを作ってやった。郵便配達夫の姿を見た彼女は、時計の針を一時間もどし、マルタンを食卓につかせ、昼食している様を装って郵便屋を迎えた。ブランシュ殺しの公判が開かれ、マルタンは被告席に座ったが、姉と郵便屋との証言は覆すことの出来ないアリバイであった。その上、ブランシュ伯父は、めいが愛していた男は領事でなくマルタンであったから、マルタンには彼女を殺す動機はないと証言したので、マルタンは無罪放免となった。しかし伯父の言葉はマルタンには晴天のへきれきであった。自分だけを愛してくれた女をわが手で殺すとは。彼はぼう然自失して被告席に座って看守に促されて、ようやく立上った。その様を空の明くほど見つめている若い男が傍聴席にいた。かねてブランシュに片恋をしていた青年である。その夜ジャンヌは弟の友達の誰彼を招んで祝の席を設けた。しかし人々の祝の言葉もマルタンの耳には入らなかった。酒宴の席に加わろうともせず、彼は己の部屋にとじこもって物思いにふけった。ふと外を見ると納屋の影に青ざめた若い男の顔が浮んでいた。マルタンはたちまち悟った。彼は消していた電燈をつけ、煙草をくわえて、窓に大きな背中をもたせかかった。銃声二声、マルタンは床に倒れた。その唇のあたりには微笑が浮んでいた。
Blanche Ferrand
Martin Roumagnac
Jeanne
The Consul
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The Superintendent
The Adjutant
The Lawyer
The Judge
Gargame
Paulot
The Postman
Bonnemain
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