アン・ハーディング
Carol Howard
「泉」「晩春」のアン・ハーディングが「沙漠の花園」「愛の花篭」のベイジル・ラスボーンを相手に主演する映画で、アガサ・クリスティ作の探偵小説に基づくフランク・ヴォスパー作の舞台劇を「椿姫」「鎧なき騎士」のフランシス・マリオンが脚色して台詞を書き、「或る雨の午後」「三銃士」のローランド・V・リーが監督し、フィリップ・タンヌラが撮影した。助演者はロンドン・ミュージカル・コメディの花形女優ビニー・ヘイルを筆頭に、新顔のブルース・シートン、ジーン・キャデル、「奇蹟人間」のジョーン・ヒックソン等である。
貧しい生活をしているタイピストのキャロル・ハワードが、僅かな給料の中から買っておいたフランス政府の富籤が当たって夢にも思わぬ大金が飛び込んで来た。貧しい娘達の憧れであるパリへ、一度彼女も行ってみたいと思っていた。同宿の叔母と友人ケートを連れて出発しようと思ったキャロルは、今迄住んでいたアパートを貸したいと新聞広告を出した。それを見てジェラルド・ラヴェルという中年の上品な紳士が訪れた。彼の洗練された挙動は世馴れぬキャロルの心を捉えるのに充分であった。彼の礼儀正しい求愛は苦もなく成功し、キャロルは愛人ロナルドの心を踏みにじってジェラルドと結婚してしまった。キャロルはジェラルドの言葉に従って郊外の淋しい一軒屋に移り甘い新婚生活に這入った。夫を信じ切っている彼女は財産の全部を彼の名義に書き替えた。ジェラルドは静かな環境の中で趣味の化学や写真の研究に毎日を没頭していた。この人里離れた一軒屋の地下室が彼の研究室に当てられ、妻でさえその室へは這入れなかった。ジェラルドは日頃持病の心臓に悩んでいたが、ある日来診に来た医師から計らずもキャロルは夫の恐ろしい秘密の一端を知った。彼は殺人を芸術と考え人生は人の血を流す事によって充足されると信じている変質者だったのだ。彼の犠牲になって過去に三人も女が殺されていたのだ。美貌で財産のある若い女に言葉巧みに近づいて結婚し、財産を自分の名義に書き替えさせると、誰にも判らぬ方法でこの世から葬ってしまったのだ。村の祭りの日ジェラルドは女中に休暇を与え邸内にはキャロルと二人切りになる手配をした。万事は手抜かりなく今こそ殺人鬼はキャロルの命を狙っているのだ。生きねばならぬ、戦わねばならぬ。彼女は静かに食後のコーヒーを夫に注いでやった。飲み終わったのを見ると冷ややかに彼女は云った。「それには毒が入れてあったのよ。そらもうお顔の色が変わって来ましたわ」ジェラルドは死の恐怖に心臓を冒されて倒れた。コーヒーには何も這入っていなかったのである。キャロルは駆けつけたロナルドの胸に抱かれた。
Carol Howard
Gerald Levell
Kate Meadows
Ronald Bruce
Aunt Leu
Dr. Gribble
Emmy
Hobson
Mr. Tuttle
監督
原作
原作戯曲
製作
撮影
音楽
台詞、脚色
[c]キネマ旬報社