ハッセ・エクマン
マッティン
“地上の地獄”というテーマの映画化をめぐる考察を、そのまま一本の劇映画に成立させてしまったベルイマンの初期にあって最も重要かつ実験性に富んだ作品。
撮影中の映画監督マッティン(ハッセ・エクマン)の許に、恩師ポールが“地上の地獄”をテーマにした映画の企画を持ちかけた。マッティンが脚本家のトーマス(ビルイェル・マルムステーン)に相談すると、トーマスは、「自分もこの世の地獄をモチーフにした話を暖めている」と言って、売春婦ビルギッタ(ドーリス・スヴェードルンド)とその愛人ペーテルの物語を語り出した。……ビルギッタはやっと産んだペーテルの子を育てたい。でもペーテルは反対し、赤ん坊を始末してしまったのだ。……一方、トーマスは仕事に行き詰まり、妻のソフィ(エヴァ・ヘニング)と心中を企む。そこでソフィは彼の頭を瓶で殴って気絶させ逃げ出したが、気づいたトーマスは自分がソフィを殺したと思い込み警察に自首した。警察署の中でトーマスは、売春中にふみこまれて捕まったビルギッタと(なぜか)出会う。子を失ったビルギッタの“地獄”と、トーマスの仕事と生活の“地獄”……二人は各々の現実から逃げ出したくて、とある下宿屋に転がり込んだ。そしてビルギッタは夢想の世界に逃避する。トーマスも後を追う。だが彼女の夢の中に現れたトーマスは悪魔のような姿に変貌した。現実にかえったトーマスはビルギッタに求愛したが、彼女は苦しみに耐え切れず自殺した。一方、孤独に打ち勝ったトーマスはソフィの待つ家に帰って来た。撮影所を再び訪ねたポールにマッティンは“地上の地獄”の企画は実現できそうにないと答えるのだった。
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