シン・ヘス
アダダ
一九二〇年代の日本統治下にある韓国を舞台に、李氏朝鮮時代の儒教思想が色濃く残る社会背景の中で、過酷な運命を生きる聾唖の少女の姿を描く人間ドラマ。監督は「シバジ」の林權澤。製作はパク・ジョンチャン。桂鎔黙の原作をもとに尹三六が脚本を執筆。撮影は鄭一成。音楽は金永東が担当。主演は本作で八八年度モントリオール映画祭主演女優を受賞した申恵秀。「ホワイト・バッジ」の李慶栄、「波羅羯諦 ハラギャティ」の韓支壹らが共演。第四回東京国際映画祭アジア秀作映画週間出品作。
一九二〇年代、韓国の片田舎。その地方の有力者であり、経済的にも恵まれた家に育った美しい少女アダダ(シン・ヘス)は、聾唖者であるため嫁のもらい手が無かった。それを案じた両親は、土地を持参金として持たせて貧之暮らしのヨンファン(ハン・ジイル)のもとへ嫁がせた。アダダは夫への愛と新生活の喜びに満ちて懸命に働き、一家の暮し向きも徐々に好転していった。しかし、真面目に仕事をしていたヨンファンだったが、悪友にそそのかされて女遊びを覚え、家を出ていってしまう。舅(パク・ウン)や姑(キム・ジョン)と共に夫を待つアダダ。やがて満州で事業に成功し、大金を得たヨンファンが妾を連れて帰郷した。ヨンファンはアダダに辛くあたり、遂に彼女を追い出してしまう。しかたなく実家に帰ったアダダを待っていたのは、一度嫁いだ嫁の出戻りを許さない父の厳しい言葉だった。途方に暮れたアダダを優しく迎えてくれたのは幼なじみのスリョン(イ・ギョンヨン)だった。共に暮らし始めたふたりは地道に働き、貧しくとも平穏で幸せな生活が続いた。だがアダダが大金を持っていることを知ったスリョンが土地を買おうと言い出し、過去の苦い経験が忘れられないアダダは、衝動的にすべての蓄えを手にすると湖に投げ入れた。激怒したスリョンはアダダに暴力をふるい、全部拾ってこいと命じた。しかし湖に飛び込んだアダダは二度と浮かび上がってくることは無く、スリョンは失ったものの大きさに愕然とするのだった。
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