アントニオ・ロペス
Antonio
スペイン現代美術を代表する画家アントニオ・ロペスの創作過程を追ったドキュメンタリー・フィルム。アントニオ・ロペスは、二〇世紀後半の世界の美術界で注目される「マドリード・リアリズム」の中心的存在で、寡作で知られる画家。彼の長年のテーマである陽光に輝くマルメロの実を描くことを中心に、彼をめぐる世界の、様々な側面を描いていく。監督・脚本は「エル・スール」のビクトル・エリセ。製作はロペス夫人で、自身も画家であるマリア・モレノ。原案はエリセとロペス。撮影はハヴィエル・アギレサロベとアンヘル・ルイス・フェルナンデス。音楽はパスカル・ゲーニュが担当。ロペス夫妻の友人として、現代スペイン美術の堂々たるメンバーが出演している。キネマ旬報ベストテン第五位
秋のマドリッド。“マルメロの陽光”と呼ばれる夏の太陽が再び戻って来る日として知られている九月二十八日の翌朝。アントニオ・ロペスが新しい画材を抱えてアトリエに来る。アトリエを掃除し、準備を整えたアントニオは、陽光が黄金色に染めるマルメロの実を描くという長年の夢に今年も挑み始めた。彼独特のセッティングをして、今年は油絵から描き始めた。何日か雨が降り続き、マルメロの木とカンバスをビニール・テントが覆う。アントニオ夫妻の親友で、美術学校以来の仲間エンリケ・グランが訪ねて来た。アントニオは絵についてエンリケにアドバイスを求めるが、結局自分の思う通りに描き直す。仕事が快調に進んで思い出話に熱中する二人。翌日からまた天候が崩れ、マルメロは成熟を続け、実も枝も少しづつ形を変えてくる。それに応じて絵を描き変えていくアントニオ。十日後、雨は嵐に変わり、アントニオは油絵の中断を決心。マリの助けで新たに素描(デッサン)用の画紙を作る。アントニオは描きかけの油絵を地下室にしまう。秋も深まった十月二十六日、アントニオは素描にとりかかった。十一月下旬に入り、マルメロは葉が繁り実が見えないほどになった。エンリケや青年画家ぺぺに手伝ってもらい、デッサンに励むアントニオ。十二月になり、傷み始めたマルメロの実が落ち始める。冬の庭でコートを着て描き続けるアントニオの姿。十二月十日、アントニオはマルメロの実を一つ一つもぎ取ると、イーゼルやテントを片付け始めた。中断していたマリの描きかけの油絵のために、黒いコートを着てベッドに横たわったアントニオは、いつしか夢を見ていた。トメリョソの生家の前にいる彼。遠くに見えるマルメロの黄金色の実と葉。そして光の中で熟れて腐っていくマルメロの実。その光は鮮烈なのに陰を帯びている。それは夜の光でも黄昏の光でもなく、夜明けの光でもない…。そして… 春。再生の季節。マルメロの木の枝には、若葉と、産毛に包まれた新しい実がたくさんなっているのであった。
Antonio
Mari
Enrique
Maria
Carmen
Pepe
監督、脚本、原案
原案
製作
撮影
撮影
音楽
編集
録音
録音
字幕
字幕
[c]キネマ旬報社