現代映画界において特異な位置を占めているロシアの作家アレクサンドル・ソクーロフ監督による文豪チェーホフを仮想の主人公とした作品。その前作である「セカンド・サークル」と次の「静かなる一頁」で三部作をなす。一人の青年がチェーホフと思われる番人に出会い、幻想的な体験をする過程を描くが、三部作に共通して終末的な世界観が提示されている。製作はユーリー・トーロホフ、エグゼクティヴ・プロデューサーはタモラ・モジリニコヴァ、脚本は「日陽はしづかに醗酵し…」及び、『痛ましき無関心』など、文学の映画化作品にも欠かせないユーリー・アラボフ、撮影はソクーロフの初期からほとんどの作品を手がけているアレクサンドル・ブーロフ、編集も同じくソクーロフ・スタッフの一員と言えるレダ・セミョーノワ、美術をウラジミール・ソロヴィヨフ、衣装をリディア・クロコヴァがそれぞれ担当。音楽はピョートル・チャイコフスキーの『エフゲーニ・オネーギン』、W・A・モーツァルトの『ピアノ協奏曲第23番』、また『静かなる一頁』にも聞こえてくるG・マーラーの『亡き子をしのぶ歌』が使用されている。出演は「セカンド・サークル」に続きピョートル・アレクサンドロフ、レニングラード演劇大学を卒業し、映画初出演のレオニード・モズゴヴォイ、また彼らの間を一匹の鶴が彷徨する。
ストーリー
ある一軒の家(チェーホフの館)で番人(ピョートル・アレクサンドロフ)が、浴室に男(レオニード・モズゴヴォイ)を見つける。彼は水を求めてやって来たチェーホフのようである。番人は一羽の鶴とも遭遇する。チェーホフらしき人物は着替えると、机について、ペンと紙を取り出す。翌朝、チェーホフは鶴のクチバシにつつかれて起き上がる。番人も鶴とともに館へやってくる。チェーホフは衣装戸棚を見て、着替える服を物色する。ついに彼は燕尾服に着替え、ピアノに腰掛け、演奏する。番人は鶴と戯れている。番人は、チェーホフのもって来たワインで、一緒に食事する。やがて番人は死んだ父のことを話し、チェーホフは死後の世界について話し始める。二人は館の外に出て、墓から外套を取り出す。二人はそのまま荒涼とした、恰も他に人間たちがいないような海辺まで歩いて行く。ある日、鶴は館を出て行く。チェーホフと番人は再び食卓に向かい合っている。番人はそこを立ち去るチェーホフに「僕はあなたと…」と呟く。マーラーの『亡き子をしのぶ歌』が海の音と共に最後に聞こえてくる。
キャスト
スタッフ
監督
アレクサンドル・ソクーロフ
脚本
ユーリー・アラボフ
製作
ユーリー・トーロホフ
製作総指揮
タモラ・モジリニコヴァ
撮影
アレクサンドル・ブーロフ
美術
ウラジミール・ソロヴィヨフ
編集
レーダ・セミョーノワ
衣装デザイン
リディア・クロコヴァ
字幕
沼野充義
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作品データ
[c]キネマ旬報社