岡田茉莉子
伊藤野枝
「さらば夏の光」に引き続き、山田正弘と吉田喜重が脚本を共同執筆し、吉田喜重が監督した愛と憎しみの人間ドラマ。現代音楽の一柳慧が担当。
一人の若い女性に束帯永子のインタビューが続く「大正十二年関東大震災のさなかに大杉栄と共に虐殺された伊藤野枝、その忘れ形見、魔子さんですね」だが若い女は首を振って答えなかった。(一九六九年三月三日)ホテルのベッドに裸で横たわる永子に畝間が愛撫をくりかえすが、永子の眼は醒めきっている。(大正五年春三月)風に舞う桜の花びらの中を、大杉栄と伊藤野枝が歩いている。二人の肩に散る桜の花は、大杉には同志幸徳秋水らが殺された暗く冷たい春を、野枝には青鞜の運動に感動し、故郷をあとにして新橋駅に降りたった十八歳の春を想い起させた。辻潤をたよって上京した野枝は青鞜社に平賀明子を訪ね、編集部員として採用された。そこで正岡逸子に会った。(一九六九年三月七日)畝間のスタジオ。マッチを丹念に燃やしている和田に「私に火をつけられる……」と永子はたずねた。刑事が訪れ、永子を売春容疑で訊問した。(大正五年二月十一日)辻潤は婦人解放にはげむ野枝の行動力を高く評価しながらも、育児ひとつ出来ない野枝に、不満を抱いていた。社会主義運動が行き詰ったこの時代、大杉はそれをつき抜けるものとして、恋愛を考えていた。妻保子があり、東日の女流記者正岡逸子にうつつをぬかし、そのうえ野枝との恋愛関係。同志たちは口をそろえて悲難した。(大正五年三月末)大杉は、正岡逸子に野枝と恋愛関係にあることを報告。「僕たちの恋愛も平等と自由の獲得のうえで生きる」と大杉の態度を責める逸子に大杉は言った。(一九六九年三月三十一日)永子は刑事に自分が売春を仲介したことを話した。それは私を容疑者にして、私に目的をくれたからだと、いうのである。(大正五年四月某日)野枝の心は辻への執着と大杉との新しい恋に引きさかれていた。野枝の義妹千代子は辻に同情していた。野枝はある日、義妹千代子と辻が抱き合っているのを見てしまった。野枝は口惜しさと安堵が入り混った奇妙で平静な感情の中にいた。辻とも大杉とも別れて一人で考えようと思いたった野枝だが、逸子は二人から自由になって、自活することなど出来ないときめつけた。(一九六九年四月一日)和田は永子に別れようと話しかける。和田は一冊の本を読み出した。「内由魯庵、思い出す人々、最後の大杉」大杉と野枝の虐殺された場面が浮かびあがってゆく。(大正五年十一月六日)野枝は大杉に従い、葉山海岸に近い日蔭の茶屋に入った。大杉を疑っていた逸子がその夜訪れた。大杉にとって、逸子と野枝は今や、かつて熱情に燃えた同志としての関係よりも、異性としての関係の方がまさり、習俗的なものになりかかっていた。
伊藤野枝
大杉栄
正岡逸子
辻潤
平賀哀鳥
堀保子
代千代子
堺利彦
荒谷来村
奥村博史
俥屋
束帯永子
打呂井恵
和田究
日代真実二
畝間満
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