小川節子
おやえ
時の将軍十一代家斉のもとに、旗本跡見平右衛門の娘八重は奥女中として上った。しかし、八重には勝田進之助という将来を誓い合った恋人がいた。大奥に上れば一生逢うことはできない。悲痛な心を抱いて大奥に上った八重は音羽の部屋の御中臈として召し使われ、いずれは将軍の夜の相手役をせねばならなかった。やがて家斉と伽役の睦言を、枕元にいて一部始終うかがい、翌朝、お年寄に報告する御添寝という役をおおせつかった。その翌日、興奮のさめやらぬ様子で報告する八重はお年寄の音羽に抱かれた。一方、八重と無理矢理別れさせられた進之助は、ある女郎部屋で大奥の女中たちが、源意寺という寺に、病気まいりを名目に日頃の欲求不満を晴らすためお共を従えてやってくるという噂を耳にした。進之助は早速この寺に行き、小坊主に金を包んで、八重が御年寄の稲葉に付き添って寺にきていることをつきとめ、逢う段取りをつけさせた。数日後、家斉の相手役に選ばれた八重は、進之助との噂を持ち上げられ、大奥追放、尼寺に身柄を預けられることになった。この不祥事を知った八重の父平石衛門は親類縁者を集め、一族の家名を汚した八重を斬ると断言した。しかし、その裏では、進之助と共に江戸の町から逃亡させる段取りをつけていたのである。その夜、小舟に乗って江戸を離れる八重と進之介の姿があった。
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