小川節子
おみつ
天保年間、年の瀬も迫ったある日、一人の無宿者が強盗のかどで投獄された。男は、当時民衆の英雄扱いされていた義賊ねずみ小僧ではないかとの嫌疑がかけられていた--天明の時、水呑百姓の次男次郎吉は大飢饉に見舞われて貧苦のどん底に苦しむ家のために江戸の呉服屋の丁稚奉公にでた。真面目に働き、三年目に家に帰ったが両親は死に、妹のおみつは人買いに買われてしまっていた。再び江戸に帰った次郎吉は酒色に溺れ、夜這強盗としてすさんだ毎日を送るようになった。一方、旗本金四郎は武家女中おみつと愛しあい、自ら桜の入れ塁を入れ無宿者となり、次郎吉と知りあった。だが晴れて夫婦になりたいと思うようになった金四郎は、老中水野忠邦の指図のもと、次郎吉を市中の英雄に仕立て上げようと、恋人おみつを夕顔と変名させ次郎吉に接近させた。金四郎の思惑通り、ねずみ小僧の名は日に日に人気を集めていった。やがて、目的を果した水野はおみつとの生活に充たされている次郎吉を捕縛した--連日連夜の拷問にもガンとして口を割らない次郎吉は、ついに北町奉行遠山金四郎の裁きを受けることになった。まんまとだまされた次郎吉は地だんだを踏んでくやしがった。そして二日後、判決が下された。「異名ねずみ小僧、入墨無宿次郎吉、市中引廻の上、獄門」
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