篠田三郎
淳
「無常」「曼陀羅」と日本人の内なる精神構造を描くその完結編とも云うべき第三作目。地方の旧家を通じて、われわれの身体と心を縛りつけている故郷を模索する。脚本は「曼陀羅」の石堂淑郎、監督も同作の実相寺昭雄、撮影は中堀正夫がそれぞれ担当。
丹波篠山の山あいに豪荘な邸宅を構える森山家は、時価百億といわれる山林を所有するこの地方きっての旧家である。当主伊兵衛は七十歳を過ぎ妻ヒサノと此家に古くから使えている召使浜とひっそりと暮していた。伊兵衛には三人の息子がいる。長男康は、本家を離れて独立、法律事務所を開業している。妻夏子は二十七歳。結婚後数年になるが、康の無力のため毎夜欲求不満に落ちいっていた。次男徹は、かつて将来を嘱望された新進の画家であったが、挫折、出奔、以来消息を絶ってしまった。三男淳は、実は伊兵衛と浜の子供であるが、この秘密は守られ伊兵衛夫婦、浜そして淳自身しか知らない。淳は、浜から森山家を守るよう言われており、康の家に書生見習として住み込み、忠実に働いていた。康の家には他に、司法官試験に合格することを夢みる青年和田と肉感的な女中藤野が同居している。二人は、日夜、主人の目を盗んで愛欲におぼれていた。ある夜、夏子はいつものように夜廻りをしている淳の懐中電灯に照し出された、和田と藤野の情交の現場を目撃してしまった。昂奮におののく夏子は、熱く燃えさかる肉体を淳に投げかけ抱いてくれなければ他に男をつくると哀願する。森山家の恥になることはさせられぬと、淳は夏子の愛撫に静かに目をとじるのだった。秘めやかに夏子と淳の情事は続いていった。しかし、やがて康の知るところとなり、康は夏子をなじり、京都に転居することにする。その頃、突如、消息を断っていた徹が現れた。森山家はわれわれの代で滅びる、生きている間に財産を使ってしまうというのだった。秋、もの狂おしい秋である--康夫婦は京都に転居し、徹は淳を下僕に、日夜放埓な生活をつづけていた。しかし淳の忠実さが、目ざわりになった徹は、淳に食事をするな、と命令する。日毎に幽鬼のようになる淳。年も新まった冬の夜--。衰弱した淳を前に、財産分配で対決する三人。山を売るのは止めて欲しいと哀願する淳に、「売られてバラバラになってゆくのは、うちの山林だけではない、日本中がそうなのだ」と鋭く反発する徹。「森山家の土地こそ日本の最後の砦でなければならないのです」と云う淳。徹は、森山家の守護神は、守護神らしく亡びてゆけと、衰弱した淳を家より引きずり出しへ森山家の墓にたたきつける。淳はもう動かない。康、夏子、徹の三人の乗る車が山道を走る。突然、淳が岩かげから現われ、両手をかざして車に突進した。車は、谷底に墜落し炎上する。翌朝、森山家の表。淳が朝日の中に息絶えているのが発見された。しかし目は見開いたまま、森山家の門にそそがれているのだった。
淳
森山夏子
藤野
和田
正体不明の僧
森山康
木暮
有田
浜
森山徹
森山ヒサノ
森山伊兵衛
監督
脚本
撮影
音楽
美術
編集
照明
録音
録音
助監督
助監督
助監督
企画
スチール
製作プロダクション