片桐夕子
お新
江戸、文化大政の頃、純真無垢な、少々頭の足りない女郎を中心に、当時の女郎たちと女衒と楼の風俗を描く。原作は荒木一郎の『風流宿場女郎日記』の映画化。脚本は田中陽造、監督は「怪談 牡丹燈籠」の曽根中生、撮影も同作の高村倉太郎がそれぞれ担当。
江戸は文化大政の頃。吉原、品川などの飯盛旅籠が全盛をきわめていた。そして、女郎を集めるべく女衒と称する人買いの群れが、日本各地を渡り歩いた。女 の吉藤次は、頭は弱いが、その方の絶品のお新を見つけ出し、品川楼に連れて来た。お新は自分がどうなるか判断できず、「好きなことをしてお金を貰える」という言葉を信じていた。男と交わることなど露とも知らないお新は、おかみのお綱が世話した男たち、筆屋の若且那半七、関取りの雪山、座頭たちと大騒動を起こしてしまう。お綱はそれではと土地の顔役、ジロリの紋太にお新をまかせた。紋太に怖れをなしたお新は、唯一の友達で、いっしょに連れて来た牛のクロに助けを求めると、クロは紋太を突き飛ばしてしまった。怒ったお綱はお新を密室へ止じ込めてしまう。その間に紋太は、クロを殺してスキヤキにし、その肉をお新にもイノシシの肉と偽わって喰わせてしまう。食べてからクロ一の肉だったと知ったお新はあまりの仕打ちに逃げ出した。やがて、責任を感じた吉藤次がお新を連れ戻し、自分で立派な女郎にすると宣言、お綱たちの見る前でお新と交わった。ところが、お新は想像以上の名器で、張り切り過ぎた吉藤次は腹上死してしまった……。楼では縁起が悪いと吉藤次の死体を野原に棄てた。一方、お新は自分が初めて愛した男を甦えらせるべく、いつまでも抱きしめるのだった。
[c]キネマ旬報社