宮下順子
日夏左枝子
子供をつくることのできない夫と正常な妻が、人工受精をめぐっての愛憎を描く。脚本は「色暦大奥秘話 刺青百人競べ」の久保田圭司、監督は「情婦」の遠藤三郎、撮影は「艶説 お富与三郎」の畠中照夫がそれぞれ担当。
マンモス団地に住む会社員・日夏昭夫の妻左枝子は、夫に対してはそれほどの不満もなかった。ただし、どちらかが原因なのか、子供ができないのが唯一の不満であった。左枝子は病院で検査してもらおうと昭夫に提案しても、昭夫は無関心であった。左枝子は、昭夫の弟で病院のインターンをしている英介に依頼して病院で調べてもらうが、異常はなかった。翌日、昭夫の使用したコンドームを英介に調べてもらったところ昭夫は“無精子症”であることが判明する。がっかりする左枝子に英介は、“人工受精”をすすめる。彼女は早速、昭夫に相談するが返事は冷たかった。夫の承諾がなければ“人工受精”をできない左枝子は、英介に頼む。英介は自分のアパートに左枝子を連れて行き“人工受精”にとりかかった。ところが、太腿を開いている義姉の豊満な肉体を見ているうちに興奮してきた英介は、自らの肉体を左枝子に突入してしまった……。彼女は英介との一件を心中で、しきりに否定した。やがて、一ヵ月後、妊娠の徴候が現われてきた。左枝子は“人工受精”のことも、勿論英介とのことも隠し、妊娠したと昭夫に告白するが、昭夫は自分が“無精子病”であることを以前から知っており、出産に反対する。しかし、昭夫は次第に左枝子の熱意におれ、子供の生れるのを楽しむようになっていった。ところがある日、昭夫は左枝子が病院で“人工受精”をうけていないことを知る、そして英介を問いつめ、事実を白状させてしまった。昭夫に厳しく追求された英介は逃げ出すように車を走らせた……。数時間後、英介が事故死したとの報が昭夫の家に届いた。事故現場を見ながら昭夫は全てを忘れ子供を育てる決心をするのだった。
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