篠田三郎
溝口
金閣寺を美の象徴として憧憬していた青年が、金閣寺の徒弟となってから、自らその金閣寺を焼失させるまでの心の屈折を描いた三島由紀夫の同名小説の二度目の映画化。脚本・監督は「本陣殺人事件」の高林陽一、撮影も同作の森田富士郎がそれぞれ担当。
溝口は、吃音コンプレックスに悩み、心に暗いかげりを抱く青年である。彼は少年の頃から、この地上で金閣寺ほど美しいものはない、と父に教えられ、金閣寺を美の象徴として憧憬していたが、父の死後、遺言によって金閣寺の徒弟となった。溝口には金閣寺と同じように自分の半生を支配している初恋の女性・有為子という存在があった。少年の頃、有為子に話しかけようとするが言葉にならず、罵倒され、冷たく拒否され、以来溝口はひたすら有為子の死を願うようになる。が、やがて彼女は脱走兵をかくまい射殺されてしまう。彼女の美しい肉体は喪失したが、有為子は溝口の心の中に生きつづけているのだった。溝口は鶴川という友人を得、老師のはからいで二人は大学に進学した。そして彼は大学で、美青年・柏木を知った。心の底に暗い悪を秘めているような柏木に惹かれていく溝口は、彼の手びきで、次々と女と接し犯す機会を与えられた。しかし、その度に突如現われる金閣寺の幻に上ってセックスはさまたげられる。彼は人生をはばみ、自分を無力にしている金閣寺を憎悪するようになっていった。柏木は金閣寺の永遠の美を批判し、溝口を背徳に誘う。その背徳は老師との間にも垣根を作ることになり、ついに老師も彼に背を向けた。寺のあと継ぎになることで現世的に金閣寺を支配するという望みも失なわれ、鶴川の突然の死も彼には激しいショックだった。全てに裏切られ、背を向けられた溝口に残されたものはただ一つ、非現世的な美との対決--金閣寺を焼かねばならぬ--ということだけだった。金閣寺に終末を与える決断が自分の手に握られている、と思った時、溝口は初めて自由になった。マッチをする。燃えあがる炎、床をはう火、壁をよじのぼる火、猛火となって金閣寺をつつむ。中空を舞う火の粉、その中を金色の鳳凰がゆらぎ、消えていった……。
溝口
鶴川
柏木
有為子
まり子
海軍士官
溝口の父
溝口母
洋館の令嬢
老師
赤いコートの女
生花の師匠
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