根上淳
伊達与作
『恋女房染分手綱』から材をえて、「一本刀土俵入(1960)」の犬塚稔が脚色し、「鏡山競艶録」の西山正輝が監督した母もの。「小次郎燕返し」の牧田行正が撮影した。
丹波亀山藩の御納戸役を勤める本田弥左衛門の息女重野は、いとこの伊達与作と恋仲となり彼の子をみごもるが不義密通の故をもって、父弥左衛門に生まきをさかれた。与作は追われて浪人となり子供は里子に出された。それから六年重野は姫君の乳人として名も重の井と改め、立派な地位についていた。が、姫を関東の入間家に養女にやることになり、重の井は姫づきの腰元若菜らとともに姫のお供をして東へ下ることになった。関の本陣へついた行列は、姫が熱を出したため二、三日逗留することになる。この地には里子に出されて捨てられた重の井の一子民之助が、名も三吉と改め一人ぼっちで馬子をして暮らしていた。折しも、三吉は道中で難儀を救ってくれた侍、与作を自分の家に伴って帰り日頃の人恋しさをぶちまけて与作に甘えるのだが、与作は自分の子とは気がつかずにいた。姫の部屋下を馬子唄を唄いながら通る三吉の美唄に、姫の腰元連中は旅のぶりょうを慰めんと三吉を本陣に伴った。野育ちの奔放な子供の遊びで姫君を喜ばした三吉は、ほうびとして小判をもらうが、その時出した守り袋をみて重の井はびっくりした。重の井は一室に三吉を伴い、人に聞かれぬよう色々と三吉に問いただし、我が子と確信した。しかし、姫の乳人という大事な役目と乳人が不義の子を持ったということが判ると、姫の養女の話がこわれてしまうという心配から重の井は悩んだ。姫の病気が治り、明日はいよいよ出立と決まった夜、重の井は意を決して三吉の家に行った。そこで与作と顔を合わせた重の井は愕然とするが、重の井から三吉が我が子と知った与作の驚きも大きかった。せめて一夜と、重の井は三吉を本陣の自分の部屋に連れ帰り、真の母と明かせぬ苦しさに胸を痛めながらも、今宵だけはそなたの仮の母にならうと三吉に「お母ちゃん」と呼ばせながら相擁して涙を流す。翌朝、行列は立っていった。駕篭の中で泣き伏す重の井。遠去かり行く行列を見る与作と三吉の姿が町角にだんだん小さくなっていった。
伊達与作
小万
三吉
若菜
重の井
お清
清野
調姫
蒔波
山田十太夫
沢助
本田弥左衛門
馬方三
字田津四郎
呉服屋忠七
馬方二
供侍松下
西川源吉
我六
馬方一
留造
馬方四
勝平
供侍田辺
外松
供侍久保
供侍井川
直江
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