伊藤久哉
江田昌利
松本清張の原作を、「火線地帯」の石井輝男が脚色し、「七人の敵あり」の杉江敏男が監督した推理映画。「漫画横丁 アトミックのおぼん 女親分対決の巻」の黒田徳三が撮影した。
A銀行支店長代理江田をリーダーとする浦橋、岩瀬三人のパーティは、鹿島槍で遭難、岩瀬は黒部渓谷に命を失った。浦橋は友の冥福を祈ってこの悲しみを雑誌岳人に詳しく書いた。岩瀬の姉真佐子は、素人らしい素朴な疑問を抱いた。初心者の浦橋が無事で経験者の弟が倒れたということである。真佐子は従兄の槙田二郎に雑誌岳人と自分の意見を書いて送った。槙田は山のエキスパートで、山に登りたいためにわざわざ東北の会社を選んだほどの男である。真佐子の疑問を一笑に附したが、岳人を読んで顔色が変った。それから槙田の活躍が始った……。夏が過ぎて冬も近いある日、真佐子と槙田は江田を夕飯に招いた。そして、弟の遭難現場に花を捧げるため、従兄の槙田を現場まで案内してくれるよう頼むのだった。江田は承知した。だが出発からして江田は槙田という男に敵意を待った。槙田のいんぎんにいう言葉の一つ一つが江田の胸を突き刺すからだ。行動はすべて浦橋の手記通りに進められた。槙田の疑問というのは、寝台車で来た岩瀬の疲労度がありすぎること、途中、何回もりュックを置いて休むのは疲労を増し足のペースが乱れることなどであった。その日は冷小屋で一泊。翌朝二人は再び出発。高千穂平に出ると槙田は、浦橋の手記からここまで大町の鐘の音が聞えたのは、すでに天候が悪化する前兆だったと言い、気象台で一週間前に出す長期予報にも低気圧がここを通ることが記されているのに--という槙田に江田はそっぽを向いていた。遭難は布引岳の頂上から北槍に向う途中に天候が激化、八峰キレットを目前に引き返したが、牛首山へ迷いこんだのが五時、疲労困憊の岩瀬を浦橋に頼んで江田は冷小屋に救援を頼みに出たのだ。冷小屋到着は七時、救援は翌朝になった。その間に岩瀬が恐怖に気が狂い崖下に転落したのであった。そういう江田に、山岳の専門誌に鹿島の北槍から冷小屋に向う時は、牛首山に迷いこむ危険性があるから注意するように書いてあるのをあなたは知っていてやったのだ、と槙田はきめつけた。すべてが偶然の可能性に基いているが、そこに作為が動いている場合は犯罪である。ただその動機がわからないため、君を告発しないという槙田に、江田は冷小屋を抜けて帰るより、この崖を下りて帰ろうと挑戦するようにいった。冬山の崖を降りる槙田と江田。先に降りる江田は槙田の足下に亀裂の罠を作り、動機は妻と岩瀬の姦通にあったといった。だが、それを知った槙田は足下が崩れて崖下へ落ちていった。死体は来年でないとあがらない。にやりと笑う江田は上を見て息をのんだ。槙田の落ちる音に、雪崩が誘発されたのだ。江田の頭上に雪崩が--
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