東千代之介
左十左
志村正浩のオリジナル・シナリオを「素浪人捕物帖 闇夜に消えた女」の深田金之助が監督した時代劇。撮影は「伊賀の影丸」の脇武夫。
剣客根津軍兵衛の道場に軍兵衛を親の仇と狙う狐独な浪人左十左があらわれ、軍兵衛に試合を申し入れた。だが刀に青春をかけた十左の執念もむなしく、軍兵衛の剣は威厳にみちていた。それからの十左はきたえにきたえられ日毎に強さを増していった。この風変りな男に軍兵衛も、一人娘刀根もいつか、魅せられていった。一方、十左はその刀根のきよらかさが、自分の剣をにぶらせるのを恐れていた。そんな時、浪人者鳥之介に出会った十左は、そのニヒルな無気味さに興味をもった。一方刀根はふとした事から、十左の真意を知り悩んだ。それから数日後、軍兵衛との真剣勝負に勝った十左の心に十年の歳月が空しく走った。「私が父の仇を必ずうつ」刀根の言葉は、仇討の業の深さを物語っていた。心身ともに弱った軍兵衛は鳥之介にとってもかっこうの餌食だった。鳥之介の凶器に倒れた軍兵衛を見た十左は、鳥之介を斬らねばならぬ、そしてこれを機会に新しい人生に生きようと誓った。刀根の顔も十左の顔も未来の希望に輝いていた。
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