若尾文子
夏枝
三浦綾子の同名小説を、「怪談」の水木洋子が脚色、「スパイ」の山本薩夫が監督した女性もの。撮影は「新・兵隊やくざ」の中川芳久。
辻口啓造は父の遺した病院を継いでいる。博愛家でとおってきた彼が、娘ルリ子を殺害した犯人の娘を妻夏枝に秘密で養女にすることを思いたったのは、ルリ子の代りに女の子を育てたいという夏枝の望みを迎える風を装いながら、娘を殺された時刻に夏枝が眼科医村井と不貞を働いていたのでは、との猜疑の拭いきれないあせりのためではなかったのか。夏枝は何も知らない。彼女はその養女陽子を異常なほど溺愛した。そんなある日、乳児院に勤める啓造の親友高木に宛てた夫の手紙を見て、夏技は陽子の出世の秘密を知った。人格の一変した夏枝に、啓造も自分の偏狭さと軽卒を侮いた。長男徹は直感で陽子の秘密を知り、ただ一人の庇護者になろうと心に決めた。八年過った。その間に徹は妹の秘密を知ったが、陽子の方も母の冷い仕打に耐えて明るい娘に成長していた。徹はそんな彼女を異性として愛するようになっていたが、大学の親友北原に陽子を託す心づもりで、彼を夏休みに紹介した。二人はなんとなく直感で愛しあうようにみえた。が、夏枝の方が北原に興味を示し、歓待した。その頃、夏枝の親友で陽子も慕っている辰子が、啓造に陽子を養女に欲しいと申し出た。辰子の同情だった。夏枝は陽子宛の北原の手紙を陽子の意思と偽って返送したり、妹との写真を婚約者と写したものだと言ったりして二人を離そうとしたが、やがて陽子たちの仲が氷解したとき、夏枝は陽子の面前で北原に彼女の過去をぶちまけた。罪の血に絶望した陽子は遺書を認め、ルリ子が殺された川原で睡眠薬を呑んだ。その間、北原はその真実を求めて陽子を世話した高木に会った。高木は実はかつての仲間の不義の子を、犯人の子として啓造たちに育てさせていたのだった。それは彼の同情でもあった。皆、後悔した。悔いの中で、陽子の生命は再び息づきはじめていた。