新田昌
三郎
武田泰淳原作の『流人島にて』を石原慎太郎が脚色し、「暗殺」の篠田正浩がフリー後初めて監督した、文芸もの。撮影は「とべない沈黙」の鈴木達夫で、日生劇場プロダクション第一作。
太平洋に本島と小島という孤島が浮んでいた。昔から“流人島”として知られ、戦後も感化院がある。ある日、本島に一人の男が現れ、セールスマンというふれこみで船主野本に宿を頼んだ。この男は三郎といい二十年前島にいたことがあった。三郎の父西原弦一郎はアナーキストで、そのため三郎は父母と兄とを特務の憲兵毛沼曹長に惨殺されていた。軍はこの残虐行為を隠すため三郎と毛沼を島に流したのだった。毛沼が島に流されたことは、三郎は知らなかった。三郎はサブと呼ばれ牛や山羊を飼っている大嶽に牛馬以下にこきつかわれた。何度か脱走を企ったが、その度血みどろになる迄打たれた。仲間の松井は三郎を裏切るし、教師の黒木は小心な傍観者だった。ある日三郎は半死半生のまま大嶽に海へ投げ込まれた。その時漁師に助けられた三郎は、二十年後再び島に現われたのだ。他所者が二十年前の三郎だと知って驚く松井、今は土建会社の社長だった。荒涼としたこの島にも美しい娘がいた。亜矢といった。亜矢は感化院の少年に襲われたところを三郎に助けられ好意を抱いた。だが三郎の気持ちは複雑だった。亜矢は大嶽の娘だったのだ。やがて三郎は松井と対決した。松井はジープで三郎をひき殺そうとして崖から落ちて死んだ。そして三郎が老いぼれた大嶽を訪ねると、大嶽は三郎だと気つかず流人が彫った仏像を渡した。三郎も何故かためらいそのまま帰った。だが、仏像に浮び上がった大嶽の指紋は、毛沼軍曹の指紋写真とぴったり一致していた。翌日、恵を決した三郎は短刀を手にして大嶽に迫った。亜矢は必死で父をかばうのだった。三郎は結局、大嶽に指をつめさせることで結着をつけた。流人サブの墓を立てようと帰ってきた三郎の使命は終った。今こそ暗い過去は葬り去られたのだ。