藤村志保
ゆき
「掏摸(すり)」の八尋不二がシナリオを執筆し、「眠狂四郎女地獄」の田中徳三が監督した怪談もの。撮影は「座頭市血煙り街道」の牧浦地志。
与作が雪女にあったのはある山小屋だった。国分寺の命で観音菩薩像を彫ることになった老仏師茂朝とともに、良質の木を求めて山林を歩き回っていたのだ。雪女は吹雪を避けて二人が泊った小屋に現われて、茂朝を凍死させた。だが、与作は雪女のことを他言しない、という約束で命を助けられたのだった。与作の脳裡には雪女の美しくも恐ろしい姿が、いつまでも焼きついていた。やがて春が来て、老師の代りに菩薩像を彫ることになった与作は、雨宿りを乞うた美しい娘ゆきと親しくなり、夫婦になった。いつか、与作は雪女のこともあまり想い出さなくなり、幸せな毎日の中で、一心不乱にノミをふるった。だが、与作はどうしても満足な像を刻めなかった。観音像に必要な慈悲の目が刻めないのだった。そんな間に時は過ぎ、ゆきは太郎を生んだ。一方、与作の仕事が捗らないのをみて、京の仏師行慶が競作で像を彫り始めた。だが行慶の像は国分寺を満足させず、国分寺の方では与作の像が出来上るのを待っていた。冬のある日、ゆきに横恋慕した地頭が与作に無理難題を押しつけて、ゆきを妾にしようとした。弱り切ったゆきは、守護職の美濃権守に地頭の横暴を直訴しようとして訪ねた。ちょうど美濃権守の子供が熱病だったのを、ゆきは三日三晩の看護で救った。やつれ切って帰って来たゆきの顔に、与作は雪女の面影を認め、ふとそれを口にした。その一瞬、周囲は吹雪にまかれ、ゆきは雪女に変った。しかし、まとわりつく太郎の姿を見て、ゆきは約束を破った与作を殺せなかった。与作は恐怖の中で、太郎を見つめるゆきの目に一瞬ひらめいた慈悲のこころを読み取った。ゆきは太郎と与作を残して雪野原の中に消えて行った。与作が見事な観音菩薩像を完成させたのは、それから間もなくのことだった。
ゆき
与作
奥方
美濃権守
行慶
惣寿
成尋
そよ
慈雲
松川
巫女
茂朝
医師A
医師B
番卒
取次の男
太郎
[c]キネマ旬報社