原節子
久松香菜江
製作は「決闘鍵屋の辻」の本木莊二郎で、『朝日新聞』に連載の永井龍男の小説から「泣きぬれた人形」の植草圭之助が脚色して、「せきれいの曲」の豊田四郎が監督に当たったものである。撮影は「哀愁の夜(1951)」の会田吉男。出演者は、「めし」の原節子、「恋の蘭燈」の池部良、「慶安秘帖」の山村聡、「唐手三四郎」の浜田百合子などの他に、三津田健、杉村春子、龍岡晋の助演、通人として知られた菅原通済の特別出演などがある。
久松香菜江は夫と別れて渋谷の叔父の家に寄隅していた。その父久松精二郎は仙台の大学の教授であったが、学会へ出席のため上京の途中、同じ列車に実業家道原や香菜江の同窓生川並陽子などと乗り合していた。道原は車中洗面所へ忘れた財布から十万円紛失していることに気がつき、自分のすぐあとで洗面所へはいった精二郎を一応疑ったが、事を荒立てることを好まず、そのまま上野へ着いた。精二郎は上野駅で倒れ、昔の弟子、宮下の名刺を所持していたことから一応彼の下宿先へかつぎ込まれた。宮下の知らせで香菜江は渋谷から駆けつけたが、宮下のすすめで、そのまま彼の許で父の看病に当たることになった。道原の女友達でもある川並陽子から、列車の十万円紛失事件をきき、父が疑われていると知った香菜江は道原に会いに行き、ひどく彼の気に入られて、就職まで世話をしてもらった。妻を失った道原は、香菜江を後妻にとさえ思うのだったが、宮下と香菜江の間に強い愛情が芽生えつつあるのを知って、いさぎよく身をひき、北海道に永住して冷凍野菜の研究をするという宮下と共に、香菜江を立たせてやった。紛失した十万円は陽子が抜取ったものだったことが、彼女自身の口から明らかにされた。
久松香菜江
宮下孝
道原敬良
川並陽子
久松精二郎
お律
叔父
叔母
安岡
菅原
画家
秘書
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