坂本武
甚市
「妻の青春」の光畑碩郎が脚本をかき、「流れの旅路」の新人小林桂三郎が監督した。ビクターの榎本美佐江を中心に「嫁ぐ今宵に」の坂本武、「カルメン純情す」の北原三枝、「わが母に罪ありや」の若杉英二、落語の桂小金治などが出演する。
下町の小さなお好み焼屋「おかめ」の一人娘美代子は、歌がすきで上手である。町内の寄合いにはなくてならぬ存在だが、湯河原に足をのばした町内懇親会の席上、都内きっての茶の問屋山城屋の若旦那修吉に惹かれる。その後もお使いの出先で修吉とかちあい、かすり傷の手当をしてもらつたことなどあって、彼が忘れられなくなった。美代子に気のある貸着屋の六造の告げ口でそれと気づいた父甚市は、身分不相応の恋をたしなめる。一方修吉は両親から菓子の老舗近江屋の娘春江との縁談をもちかけられているが、あまり乗気ではなかった。春江は気のおけぬいい娘だが、少々でき過ぎている感じである。「おかめ」で食事中の春江に宛てた歌舞伎の招待状を山城屋の小僧がまちがえて美代子に手渡したため、彼女は修吉と同席、夢みたいな一夕を送る。思いがけぬ事の次第をはじめ訝かつた修吉も、やがて美代子の初々しさが満更でもなくなった。数日後、彼は「おかめ」に美代子を訪ねたが、春江との縁談の件を誤解した甚市に追いかえされる。が、当の春江には心に秘めた恋人のあることがわかり、美代子はめでたく修吉と結ばれた。
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