市川雷蔵
薊の平太郎
心中まではかった相愛の男女が宿命の流れにはかなく別れてゆく物語。額田六福原作の舞台劇を「婦系図 湯島の白梅」の衣笠貞之助と「かんかん虫は唄う」の犬塚稔が共同脚色し、「綱渡り見世物侍」の加戸敏と竹村康和が夫々監督と撮影を担当した。主なる出演者は「新・平家物語」の市川雷蔵、菅井一郎、「お父さんはお人好し」の峯幸子、「風雲三条河原」の山根寿子、「花ひらく(1955)」の三井弘次など。
賭場のもつれから役人に追われた平太郎は岡ッ引辰五郎が経営する矢場に逃げ込み、矢場女お仙を知った。しかし辰五郎に見つかり二人は逃げ出した。材木商大和屋の一人息子でありながら、身を持ちくずした平太郎と、泥水稼業のお仙は打ちあけた話をするうちに厭世的な気分になり、相抱いて大川に身を投げた。お仙も平太郎も救われた。お仙を助けたのはばくち打ちの船頭、藤兵衛で、平太郎を助けたのは、平太郎のいとこで許婚であるお菊の家、但馬屋の家の者であった。それがもとで平太郎は大和屋に帰り家業に励むことになった。だが、その為にお菊を嫁に貰いそこなった山田屋の清三郎は、やくざの源九郎にすすめられてお菊を誘拐することにした。源九郎が力ずくでお菊をひっさらい、清三郎の待つ舟に運びこんだ。これを近くの舟で見ていたのは藤兵衛と、今は彼の女房になっているお仙であった。二人は源九郎の手からお菊を奪い、お仙はこの事件を種にして大和屋へゆすりに行った。そこで計らずも平太郎に再会したお仙は昔の情炎を燃やした。藤兵衛はやきもちを焼いて、お仙の案内で舟に来た平太郎にお菊を渡さず斬りかかった。手釣を持つ平太郎は藤兵衛と激しく争った。藤兵衛は平太郎の一撃を受けて水中に落ちて死んだ。心ならずも人殺しをしてしまった平太郎はかたぎになる希望も失い、お菊の悲しみをよそにお仙とも別れ、再びやくざの世界に戻って行くのだった。
薊の平太郎
矢場女お仙
お菊
荷足の藤兵衛
柾目の半次郎
蠍の源九郎
お政
大和屋利右衛門
相模屋太兵衛
山田屋清三郎
岡ッ引辰五郎
但馬屋番頭久六
矢場女お金
やり手婆おたみ
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