宝田明
緒方俊夫
金の魅力にとりつかれ殺人迄犯す青年の悲惨な末路をドキュメンタリーに描くスリラー篇。“群像”に所裁された北原武夫の“渇いた部屋”を「若き潮」の沢村勉が脚色し、「丹下左膳(1956)」(三部作)のマキノ雅弘が監督した。撮影は「吸血蛾」の安本淳。主な出演者は「森繁よ何処へ行く」の宝田明、「不良少年(1956)」の安西郷子、中田康子、平田昭彦、田中春男、「妻の心」の中北千枝子、「ならず者(1956)」の志村喬など。
友人の中田に借金の返済を迫られ、切羽つまった緒方俊夫は或る夜、愛人波子の勤めるバーで中田を殺し、三百万円入りの鞄を奪った。傍で手伝った給仕の晃治を加え、俊夫、波子の三人は闇にまぎれて逃走、洋品店の二階に潜んだ。翌日、新聞、ラジオが事件を大々的に報道する中で、俊夫は金を腹に巻きつけ平静を保っていたものの、晃治が彼の可愛がる猫を焦立たしさから殺すのを見て、狂ったように晃治をも絞め殺した。東京を逃れた俊夫と波子は西に急いだが、危険を感じ途中の小駅で下車、あてどもなく田舎道をさまよった。道端のラジオは、二人が関西に逃亡し逮捕は時間の問題だと告げた。関西も危い、やがて二人は九州若松港に現われた。沖縄へ渡ろうと、俊夫は知合いの佐久間に斡旋を頼んだ。佐久間は一人二十万円の渡航費を要求した。すると金に眼のくらんだ俊夫は、とっさに一人で行こうと決意。出航の日、波子を欺き、佐久間と二人で波止場に向った。しかもその途中佐久間から更に礼金百五十万円を要求された俊夫は、これ以上命をかけた金を渡せるかとピストルを放って佐久間を打ち倒した。出航の汽笛に俊夫は夢中で桟橋に駈け出したが、正面から警官が来るのに気づいた。引き返そうとしたとたん、倒れていた佐久間が放った一弾は俊夫の胸に当った。駈けつけた波子の手も払いのけ、散乱した札束を鷲づかみにして俊夫の息は絶えた。やがて銀座の酒場に急に荒んだような波子が取囲む客に答えて「あの人が愛してたのはお金だけだったのよ」とうつろな笑いを浮べていた。
緒方俊夫
母真津
鹿島みね
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織田波子
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