高堂国典
佐山安衛門
田中澄江のオリジナル・シナリオを、「愛情の決算」以来一年ぶりの佐分利信が監督し、「東京のテキサス人」の芦田勇が撮影した。主演は、これが東宝復帰第一回作品の新珠三千代、「わが胸に虹は消えず」の河内桃子、「鯨と斗う男」の佐野周二、「目白三平物語 うちの女房」の久慈あさみ。ほかに田崎潤、佐分利信、佐原健二、藤木悠など。
深川の材木問屋佐山家の安夫の嫁けい子は、二度目の縁づきとはいえ、その夫婦仲は人目も羨むばかりの睦じさであった。ある日、山に材木の買付けに行っていた父の安衛門が怪我をしたという急報に、現場にかけつけた安夫は、誤って河に落ちて打ちどころが悪く死んでしまった。それから一年、安夫を失ったけい子の心の傷手は未だ消えず、墓詣りを日課のように続けていた。そんなある日、彼女は安夫の生前の友、時岡と出会った。折も折り、佐山の両親は、けい子と安夫の弟夏樹との結婚を望んでいたが、夏樹には恋人はるえがいた。この事情に気づいたけい子は、時岡を訪れ安夫に代って夏樹のために一肌脱いでくれと頼んだ。そんな彼女の優しさに時岡はかつて戦災で妻を失って以来忘れていた仄々とした愛情を喚び起された。--けい子と時岡はやがて結ばれた。幸福な一年が過ぎて、二人は晩春の日光へ旅行した。この地はかつて安夫と新婚旅行に来た想い出のところだ。ここへ来たのも、彼女は秘かに自分の心をためすためだった、彼女は改めて時岡を深く愛していることを確めた。だが、その喜びも一瞬にして吹飛んだ。時岡が彼女の目の前で自動車にはねられてしまったのだ。度重なる夫の死に、彼女は自分には死神がついている、と欺き悲しむのだった。--時がたち気を取直した彼女は、学校時代の親友のみね子の嫁ぎ先の画家林を訪れ、時岡の写真を出して彼の肖像画を描いてくれと頼んだ。その頃、林とみね子とは以前からの不和でみね子は家を出ており、取残された息子のみつると林が不自由なやもめ暮しをしていた。そんな姿にけい子の心は痛み何かと面倒をみてやるのだった。林もけい子の女らしさに胸をつかれるのだった。一方、佐山家ではけい子に再び家に戻ってくるようにすすめていたが、けい子はいまはみね子と正式に離婚し、絵画への自信も失いかけた林を立直らさせようと一生懸命であった。そして、旅に出て気分を変えるように彼にすすめ、彼女はその留守の間、みつるを預かり、アトリエに泊ってやった。--今は彼女の帰りを待ちわびる佐山家の人々をよそに、けい子を乗せた自動車は今日も川沿いの道を林のアトリエに向う。女の仕合わせとは、いつもだれかのためを考えていることだ、とけい子は車の中で自分に囁きかけていた。
佐山安衛門
佐山きん
佐山安夫
佐山夏樹
けい子
時岡謙作
林三郎
林みね子
林みつる(小一)
林みつる(小三)
はるえ
かく子
佐山番頭
時岡番頭
野上
沢田
三木
なみ子
しめ二
清香
焼鳥屋
焼鳥屋客
船頭
筏師
木場の同業者
[c]キネマ旬報社