大川橋蔵
若さま
大川橋蔵主演のシリーズ“若さま侍捕物帖”の一篇。城昌幸の原作を、「修羅八荒(1958)」の比佐芳武と「一心太助 天下の一大事」の鷹沢和善が共同脚色、「一心太助 天下の一大事」の沢島忠が監督した。撮影は「濡れ燕 くれない権八」の山岸長樹。橋蔵のほか、尾上鯉之助・月形龍之介らが出演。
ご存じ若さまが居候をきめこむ舟宿・喜仙の近くにある、紅鶴屋敷に、夜ともなると無気味に廊下をきしらせては消える人影があるとの噂が立った。この紅鶴屋敷には、その昔、美しい姫が三国一の婿を得たいと祈りをこめて折った鶴が千羽になったとき、帆に紅鶴を染めぬいた舟で立派な若殿が現れたという伝説があった。折しも舟祭りが近づいていた。祭りをあてこんで集る人々の中には最近、紅鶴屋敷を買取って移り住んできた江戸の豪商・越後屋の勘当息子・清吉とその仲間のヤクザ者・勘八・猪之助、梅吉の四人がいた。清吉は勘当された腹いせに伯父の越後屋清左衛門から金をゆすろうとしてきたのだ。ところが間もなく、町はずれで清吉の仲間三人と、それに清左衛門が死体となって発見された。若さまが事件に乗出した。彼は紅鶴屋敷から立ち昇る煙を意味ありげに眺めている浪人者を見つけた。それは網元茂兵衛に居候している佐竹半次郎という浪人だった。数日後、若さまは、突堤で海を眺めている女、紅鶴屋敷の女中お千代から、屋敷の謎を聞き出した。--お千代と半次郎は紅鶴屋敷の元の持主の遺児で足音事件の張本人。二人は先祖が屋敷の密室に五千両の小判を隠していたことを知り、お千代が女中として屋敷に住込み、煙を合図に半次郎を導いて小判を運び出していた。ところが数日前から半次郎が消息を絶ち、代って煙の合図もしないのに無気味な別な人影が忍びこんできたというのだ。祭りを明日に控えた一日、町の寺の本堂で前祝いの集りが開かれた。そこへ若さまが現れ、舟祭りの由来を知りたくて庫裡から借りてきたと、縁起絵巻を取出した。絵巻には帆に紅鶴の印をした舟が描かれてあった。「紅鶴の舟とは海賊船か、すると舟祭りというのは海賊の祭だな」という若さまは居合す住職の覚全と網元たちの歪んだ顔を見逃さなかった。舟祭りが始った。騒ぎをよそに紅鶴屋敷の密室には半次郎を待つお千代がいた。そのとき無気味な足音が。つづいてお千代の恐怖の叫び声。張込んでいた若さまと江戸の御用聞き小吉が脱兎の如く逃げ出した黒い影を追った。と、そこへ寺が火事だという騒ぎの声。人波にさからい黒い影を追って網元の家の敷居をまたいだ若さまは、そこに無残な網元の死体を見た。なおも黒い影を追う若さまは、ついにその正体、覚全を捕え、これを斬った。覚全は、かつて清左衛門、茂兵衛らと抜荷買いをやっていたが、清左衛門と仲間割れし、これを斬り、さらに茂兵衛が半次郎の小判持出しを知って、半次郎を斬り小判を横取りした事実を見て、茂兵衛をも殺してしまったのである。事件は落着、紅鶴屋敷をめぐる暗い影は消えた。
若さま
遠州屋小吉
清左衛門
覚全和尚
茂兵衛
清吉
佐竹半次郎
十手の甚兵衛
よだれくりの丁松
与吉
六助
お千代
おいと
お崎
おとし
糸平
鯉三
勘八
猪之吉
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