山田真二
笹原恭一
シナリオ文芸協会の第三回作品。前作「荒城の月(1958)」に次いで、猪俣勝人が脚本・監督する。撮影は板橋重夫。
三浦三崎の観光バスに志津子は車掌として勤めていた。彼女には東京の大学をこの春卒業する恭一という恋人がおり、彼が就職したら、東京に出て近代的なアパート住いをしたいと夢みていた。しかし恭一は就職試験に皆落ちてしまった。くさっている彼を同級の啓子、きみねは慰めた。啓子の父はある大会社の重役なので、恭一は啓子を通じて彼女の父に紹介してくれるよう頼んでいたが、当てになりそうもなかった。同輩の三宅は卓球のチャンピオンということから一流会社に就職が決まっていた。がっかりした恭一はふと故郷の三崎を想って皆でハイキングに行こうと提案した。彼らが出かけたその日、ちょうど志津子も思い立って東京に出た。志津子は恭一が留守なのにがっかりし、その足で三宅のアパートを訪ねた。すべて整った近代的で明るい室内に、ますます東京の生活に憧れを強くした。一方、恭一の一行は城ケ島に渡って釣をしたり、大いに楽しんで帰っていった。やがて卒業式となり、一同は三宅のアパートに集った。恭一のやけ酒をあおる姿を見て啓子はもう一度父に頼んでみようと思った。三崎に帰った恭一は毎日をブラブラ過していた。そんな或る日、漁業会社の支店長から面接したいという通知を受け取った。恭一には心当りがなかったが、啓子が父に頼んだ結果だった。ここまできた恭一はどんなことでもするつもりだった。支店長は恭一を船に連れていき、マストの先端まで登らせた。恭一は必死だった。足はふるえ汗が流れた。そんな姿をみた志津子は、雑役夫のような仕事であることに失望した。二人の未来にかけた夢が消えるような気がしたのだ。翌日彼はサザエを土産に啓子を訪ねた。その日はきみねが帰郷する日で二人は東京駅に見送った。彼女らは大学を出て雑役夫になるという恭一を、ともども激励した。夜恭一が帰ると、志津子が待っていた。彼女は恭一と争ったことを後悔し、彼と一緒ならばどんな幸せよりも優るのだとはっきり悟ったのだ。それから数日後赤道水域に出港する船の甲板に恭一の元気な姿があった。
笹原恭一
兄新平
嫂とく
甥新太郎
永見志津子
兄清
嫂波子
酒上啓子
安西きみね
三宅政雄
政雄の母
大学生吉田
漁業会社支店長
三岬館の女中
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