桂木洋子
宮原紀久子
週刊新潮所載の吉村昭の同名小説の映画化。不倫の恋にふける大学教授夫人が、密会中に殺人事件を目撃したために破滅の道をたどるというサスペンス・ドラマ。「その壁を砕け」の中平康が脚色・監督、「海底から来た女」の山崎善弘が撮影した。
紀久子は大学教授宮原雄一郎の妻だ。十四も年上の堅苦しい学者生活を送る夫との味気ない結婚生活。いつか彼女は、毎月自宅で行われる法科学生の集り・二十日会のメンバーの一人、川島郁夫と不倫の恋におちた。--その夜も紀久子は、自宅の近くの林の中で郁夫の激しい抱擁に身をまかせていた。そのとき、突然、二人の目前でタクシー強盗事件が起った。雲間をもれた月光に浮んだ被害者の無気味な姿。二人は現場から逃げた。目撃者として警察に出頭すれば二人の不倫の恋も明るみに出る。思考はめまぐるしく回転した。誰かに顔を見られなかったか、紀久子は不安な一夜を過した。翌朝、平静をよそおいつつ夫を送り出した。女中のさよが、昨夜の強盗事件を語った。紀久子は深い悔恨に涙した。一方、郁夫もラジオで強盗事件を知り、さらにテレビで被害者の家族の悲しみと悲惨な生活を知り、唯一の目撃者として捜査に協力すべきだという正義感に駆られた。しかし、紀久子の苦境を思うと、ただ焦躁に悩むだけ。外出から帰った妹の英子が「いま乗ってきたタクシーの運転手、顔にも頭にも傷あとがあるの、去年、自動車強盗にあったんだって……」という言葉に、郁夫はたまらず表へ飛び出した。その足で郁夫は紀久子を訪ね、警察に届けようと話した。紀久子は、それを止まるよう懇願した。翌日、紀久子が郁夫の下宿を訪ねた。夫に知れたら、私は終りよ--紀久子の言葉に郁夫は、自分との関係がたわむれに過ぎなかったことを知った。郁夫は黙って外へ出た。小田急線のある駅のホームに立った郁夫を、追ってきた紀久子が認めた。特急の通過を知らせる駅のアナウンス。今は憎悪に燃えた紀久子は、轟然と近づいた電車に、郁夫の背を押した。「飛込自殺だ」と叫ぶ群衆を後に紀久子は駅を出て足早やに住宅街の坂を歩いた。ようやく安堵の色がわいた紀久子--その後へ自転車で近づいた工員風の男二人、その一人が紀久子の腕をつかんで言った。「見ていたぞ!お前の真上で電気工事をしていたんだ」--。
宮原紀久子
夫雄一郎
さよ
藤原典子
川島郁夫
妹英子
刑法教授
金山徳平
妻よね
テレビ・アナウンサー
若い男
洗濯屋
電気工夫A
電気工夫B
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