増田順二
久山直三
「喜劇は終りぬ」に次ぐ大庭秀雄演出作品。
竹下閑平は『現代公論』社長であり、金と欲とにとりつかれている男である。今日も今日とて社員の久山直三を連れて、現代公論得意の名士立志伝のネタをとるべく、冨士工業の田宮専務を訪れるが、話はいつの間にか城南光学の買収問題に落ち、筆記について行った久山は呆然とさせられる。久山は元々社長のゆきかたに不満を持ち、何とかして社長の誤った方針を改めさせたいと思っているが、非力な一社員の彼にはなかなか思うようにはゆかない。それどころか社長の命令とあれば城南光学へ買収の件でおもむかなければならない。そんな彼の会社へある日一人のタイピストが入社した。山口三千代と名乗る溌剌とした美人で、社長は一目で御満足『貴女のような方に来て頂ければ、仕事の能力もあがる事でしょう』そう言う社長の顔へぷうーっと煙草のけむりを吐きつける彼女である。城南光学は遂に冨士工業の買収するところとなったが、それに反対した城南の行員朝見章太郎は官憲に拉し去られる。買収の裏面に躍る須磨少佐の差しがねであった。あまりにも腐敗した社内の裏面に愛憎をつかした久山は辞職しようとするが、それは卑怯だ何処までも戦えと言う三千代の言葉に彼は一度は考え直すが、須磨少佐や田宮らの陰謀に乗せられ現代公論をそっちのけにして閑平が竹下南方拓殖などというものを設立するに及んでは、奮然退社せざるを得なかった。三千代が彼と行動を共にした事はもちろんである。しかし敗戦に次ぐ敗戦の結果として南方拓殖の事業などは発展すべくもなかった。閑平もようやく須磨、田宮一派にあざむかれていた事に気がつくが時すでに遅く彼はとことんまで財をはたいていた。彼は狂人のように己の事務所で暴れ回る。--それから一年の後、久山と三千代を中心とした新しい人々の手によって『現代公論』は再出発をする事となった。
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