佐分利信
白崎
終戦直時--九州のある高射砲陣地で、応召による俄か兵士の白崎と赤井は、ことごとに暴虐なる黒瀬隊長にいじめ抜かれ、理由もなく彼の腕力の犠牲となっていた。ある日。慰問団が来て、その少女達に御馳走するんだと近所の村へ鶏の徴発に出て、鶏を持って帰らなかったというので、例の鉄拳が二人の頬に飛ぶ。遂にこらえきれなくなった白崎が、重営倉を覚悟の上で、黒瀬を殴り返そうとした時、急の呼集が隊長に来て、陣地内はただならぬ雰囲気に包まれた。ポツダム宣言受諾--日本は無条件降伏をしたのだ。別府から神戸へ帰る汽船の中で、白崎と赤井は、一匹の鸚鵡に「馬鹿野郎」と言われたのがきっかけとなり節子という娘と親しくなった。彼女は先日陣地へ来てくれた慰問団のスター歌手だった。亡くなった兄が大切に飼っていたこの鸚鵡--兄が愚かなる国の指導者達に報いる心からの叫び「馬鹿野郎」を鸚鵡が覚えて喋ったのだ。大学出の白崎と節子は話があって船が神戸に着くまで語り明かした。大坂へ帰った白崎は、工科出の彼の研究を生かし、戦災ビルディングを修理して、アパートに改造、ここに沢山の家なき人々を住ませる計画を立て着々に実行に移していた。このビルの地下室に、平和商会と名は立派だが、実は闇の一団が巣食っている。首領はかっての隊長黒瀬だった。彼は終戦のドサクサに運び出した軍の物資を大量にここへ持ち帰って不正な利得をせしめていた。その一味に、黒瀬の手下であるとは知らず誘い込まれたのが赤井で、彼は何とか、恋人花枝を幸せにしてやりたい一心から、闇の下働きをしていたのだ。しかし、黒瀬がその首領であると知っては、いくら気のいい赤井でも、この一味に加わる気がしない。やめさしてくれ、やめさせない。そして仲間を裏切る者として、ひどいめに会わされているところへ、入って来たのがビルディングの中を見巡っていた白崎で、かっての仲間赤井の危難を、どうして見逃せよう。まして、不正なる、暴虐なる、黒瀬が相手とあれば、よし、この相手は俺が代わって買って出よう……白崎対黒瀬一味の乱闘となる!やつと白崎の鉄拳の前に、悪の一団が倒された時、部屋のラジオは節子の歌を放送し始める。節子と言えば、白崎を愛して、鸚鵡にまで「シラサキさん」と言わしているくらい。しかも、白崎の妹をひょんなことから彼の妻だと誤解して、心を痛め、明日からあてのない旅に出ると言っていたッけ。白崎も本当は節子が好きなのに……これはいけない。白崎と赤井はトラックを飛ばして放送局へ馳けつける。愛する人の顔を見て、放送中の節子は急に元気になり「鸚鵡の唄」の甘い歌声はたちまちアンテナを通じて、日本中にひろがった。それから程なく、改造なった戦災アパートの窓々に明るい灯がついた。赤井と花枝、白崎と節子の二組の楽しい新家庭。「アナタァー」……部屋の鸚鵡の悩ましい事よ。この夜鸚鵡は、果たして何を覗いたであろうか??
白崎
赤井
黒瀬
節子
花枝
永江
雪子
白崎の父
歌手
山口さん
花枝の伯母
靴を磨かす青年
吉田さん
吉田の奥さん
現場監督
楽屋番
慰問団の人
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