阪東妻三郎
国定忠治
「明治の兄弟」に次ぐ松田定次監督作品。
天保八年、関東地方は打ちつづく凶作に悩まされた。ことに上州一帯は一滴の雨も降らず、大干ばつに見舞われ田は白く涸れて亀裂を生じ、このままでは稲も枯死して一粒の米も得られぬであろう。国定村をはじめ二十個村の農民は必死の雨乞を続けたが、晴れつづく夏空に一点の雲もあらわれない。絶望した農民の中に水はある、粕川の水門を切れば二十個村の新田を潤すに十分だと叫ぶ者があった。農民は水門に押しかけようとした。国定村の忠治はそれを止めて粕川水門をあずかる博徒島村の伊三郎に懇願したが聞かれなかった。忠治は百姓達の貧苦欠乏を見るに忍びず、江戸に出て繭買上げ助成金下附の運動に成功した。その祝宴に招かれて代官松井から伊勢崎の芸者お町を所望された。お町はかねてから忠治を慕い、松井の手を拒絶して忠治の家に押しかけ女房に入ったが二人の間は純潔だった。百姓達の糧となるべき繭買上げの助成金は代官と問屋筋の共同工作によってたくみに巻き上げられ忠治の努力も水泡に帰した。途方にくれた百姓達の窓先から天狗の面をかぶった男が二三枚の小判を投げ込んで歩く。忠治は亡父の法要にかこつけて全財産を貧窮の百姓達にわかち与えた。彼は一切を挙げて百姓達のために尽くそうとしたが、菩提寺の和尚から百姓の味方になるなら百姓になれ、百姓の苦しみを知れと教えられて深く反省した。代官松井は配下の島村の伊三郎に命じてお町を忠治の手から取り返そうとした。忠治はお町に苦衷を打ち明け、水門を開くのと引き替えにお町を渡す約束をし、お町は進んで代官屋敷に行った。忠治の子分浅太郎はお町が変心したものと誤解し、お町を斬ろうとしてその本心を知ったが、彼は松井のために斬られた。浅太郎は重傷に屈せず忠治のもとに帰り、百姓衆の難儀を救うため、忠治の名を売るため天狗の面の夜盗になったことを告白した。忠治一家は、代官と伊三郎が約束を履行しないことを知り事を起こそうとした。忠治はそれを押し止め自ら代官屋敷に行ってかけ合った。代官は天狗強盗の張本人として忠治を捕らえて投獄した。忠治には亡き妻との間に出来た一子寅次という若者があった。寅次は水戸の百姓の家に養われていたが父を慕って国定村に入り込み忠治の身辺を見まもっていた。寅次は牢獄に忍んで忠治を救おうとし、忠治の兄弟分日光の円蔵も来て忠治を救い出し百姓衆のために最後の力を尽くしてくれと頼んだ。忠治はついに起った。餓死寸前の百姓衆のために、もはや一刻の猶予もならなかった。彼は邪魔者を払いのけ粕川水門に駈けつけた。農民もまた押し寄せた。そうして水門を守る伊三郎等と争った。忠治は百姓衆を護り悪漢どもを打ち払って水門を破った。水は奔騰してからからにひび割れた田を浸して行った。農民は歓呼の声を挙げた。忠治はすべてをわが身一つに引き受け捕吏の手を待つべく赤城山に向かった。円蔵もお町もそれにつづいた。寅次も共に従いたいと乞うたが、忠治はお前はよい百姓になれといってやさしく追い返した。
国定忠治
日光の円蔵
板割の浅太郎
三つ木の文蔵
八寸の才市
山王の民五郎
寅次
お町
貞然
松井軍兵衛
役人大竹
島村の伊三郎
小柴の弥太吉
百姓嘉右衛門
百姓喜右衛門
百姓佐次平
馬力次郎兵衛
茶屋の亭主藤助
上州太兵衛
久兵衛
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