原節子
人見孝子
「安城家の舞踏会」の製作スタッフがそのまま顔をそろえて小倉武志のプロデュース、新藤兼人のシナリオ、吉村公三郎がメガフォンをとり、カメラは生方敏夫の担当。吉村としては「象を喰つた連中」「安城家の舞踏会」に次ぐ終戦後第三回作品。出演者は「安城家の舞踏会」「女だけの夜」に次ぐ新東宝の原節子「リラの花忘れじ」に次ぐ佐分利信「若き日の血は燃えて」に次ぐ山内明、「大曽根家の朝」「情炎(1947)」「手をつなぐ子等(1948)」の杉村春子などである。
青年代議士矢島隆吉は恩師人見敬太の新しい墓標に詣でた時、遺児孝子に会い医専に通う彼女の学業と生活を助けるためにあらゆる援助を申出た。家庭教師の名目で隆吉の家の人となった孝子は子供たちにも慕われ家庭に明るい灯を灯した。孝子のただ一つの気がかりは神田の下宿を引払う時医大の学生武田三郎が学資稼ぎのヤミ行為が発覚して捕らわれたことだったが隆吉は気持ちよく罰金を出してやった。隆吉には妻時枝がいたが胸の病いのため海辺の療養所にいるので月一回子供たちとともに訪れるのを例にしていた。ある日孝子も伴って療養所を訪ねた時、時枝は彼女の健康と美貌にたまらない羨望を覚え同時にこみあげる嫉妬の念をどうする事も出来なかった。やがて選挙の応援に出かけた隆吉は過労がたたって旅先で倒れた。電報を手にかけつけた孝子の前には意外にも元気な彼がいた。その夜同宿を余儀なくされた温泉宿で、彼女は隆吉の勧めるままに酒を飲み踊った。抱いた隆吉の手に加わる力、熱いまなざし-全てを知った孝子は逃れるように東京に帰り、隆吉もまた後を追った。許されるべき恋ではない、しかし押え切れない愛情に二人はしかと抱き合った。その時ドアーを開けて入って来た時枝は嫉妬に狂って孝子を罵倒した。たまりかねた孝子は家を出てもとの下宿に戻ったがそこには罪は晴れたが罪ゆえに学業と東京を捨て寂しく田舎に帰る武田が忙しげに旅仕度をしていた。以前より孝子を恋していたという彼の告白を聞いて、何かすがるものを求める彼女の心は動いた。孝子は武田とともに朝の汽車で彼の田舎に帰ることを約束した。その時隆吉の長女直子から時枝の病状悪化を伝える知らせに、孝子はかけつけ、静かに消えてゆく息の下から「隆吉と子供を幸福にして下さい」と頼む時枝の言葉に孝子の体一杯の慟哭は続いた。武田は全てを諦め汽車の人となってゆく。
人見孝子
矢島隆合
妻時枝
長女直子
長男秀雄
武田三郎
清水
森山春江
党員
林原
婆やセツ
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