加賀邦男
恵吉
短篇映画「ゴムマリ」でスタートしたマキノ映画社の「暗黒街の天使」「桜御殿」につぐ三本目の劇映画である。製作、監督は前二作と同じマキノ眞三で、脚本は元日活、大映にいた京都伸生と惠良部香の共同執筆で、演出に安達伸夫が協力する。撮影の松井鴻、音楽の高橋半は前二作と同じである。「春爛漫狸祭」(大映)でカムバックした元ムーラン・ルージュの明日待子、東横から大映多摩川に転じた星美千子、「二十一の指紋」(大映)の斎藤達雄と高田稔などが出演し、東宝の斎藤英雄も出演している。
ホテルと呼ぶ駅の構内の廃車は、浮浪児勘太、良一、三平のねぐらである。駅に働く人たち--信号係の六平爺さん、機関士の南条、出札掛の八枝などは、この浮浪児たちを愛し、これを黙認していた。ある日、このホテルに負傷した恵吉と呼ぶ青年がころがり込み、彼等の手当を受けた。と、それから、毎日一人の女が廃車の近くに現れ、恵吉を探し求める。彼女は駅前のダンスホールに働くトミという恵吉の恋人である。恵吉はトミに会ったが、敗戦の世相に身も心も打ちひしがれ、悪に染んだ恵吉はトミのもとに返ることをきらった。一方南条の助手吉川は、同期の南条の出世をそねみ、ついに坪井、堀などのギャング一味と結託して、鉄道を利用した種々の悪事を働く様になっていた。恵吉も実はこの一味の人間で、さきの列車襲撃で負傷したのであった。坪井たちは探しもとめた恵吉を廃車内に発見し、強迫して再び荒仕事に協力を求める。意を決した恵吉はトミに明朝を約し、坪井にもらった手付金で勘太、三平、良一たちに身のふり方をつけてやる。いよいよ列車襲撃の夜が来た、手びきは吉川である。南条は吉川をおそってまず脱落させる。ついで坪井と堀に飛びかかる。恵吉の裏切りを知って坪井の放ったピストルは南条を打ち、恵吉も傷つく。かけつけた警察官にとらわれた恵吉にトミはいった「待っています……二年でも三年でも」。
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