長谷川一夫
雅一
製作は東日興業社長鈴木郁三。企画は「甲賀屋敷」の清川峰輔。脚本は「無頼漢長兵衞」「白雪先生と子供たち」「女の四季」「また逢う日まで」(水木洋子と協同)の八住利雄。演出は「佐平次捕物控・紫頭巾」のマキノ正博である。カメラは谷口政勝の担当。主演は「甲賀屋敷」「蛇姫道中」の長谷川一夫、「おどろき一家」「なやましき五人男」の古川緑波、「甲賀屋敷」の長谷川裕見子で、それに「東京無宿(1950)」「闇に光る眼(1950)」の逢初夢子、「与太者と天使」の三谷幸子、「頓珍漢桃色騒動」の森川信らが出演する。
密輸ギャングの一味の、美男の顔役雅一は、追われる身の焦燥を、ホールで、マリを相手にジルバを踊り狂って、自らごまかしていた。ある日ふと、客席でみた百面相の男が、昔の知り合いの徳であることを知って、雅一は、その男とある悪だくみをする。それは「苦悩消滅万病快癒……」というポスターを出し、あやしげな祈祷所をつくって、無知な近くの農村の人々をだまかして金品をまきあげることだった。密輸ギャングが身をかわす一つの手だった。このインチキはしかし成功した。徳はホクホクだった。この徳に美代という娘がいたが、この娘は純情娘で、雅一や親の悪計も知らなかった。雅一は、この純真な娘に次第にかつて覚えなかった真面目な恋を感じるのだった。このごろ昔の仲間の三郎が、やって来てゆすったが、今の雅一には、この三郎をあっさり処置出来なかった。恋する身の、真人間になろうとする身の弱さだった。その頃、土地の警察では徳一味の内情をさぐり、刑事が乗り込んだ。美代ははじめて雅一や父の正体を知った。だがその時、雅一と父は、奥の祈祷所で、美代のことについて争っていた。徳は美代を雅一などにやりたくなかった。それは父親の愛情だったろう。雅一の拳銃は火をふいた。そして雅一自身が傷ついた。雅一は傷をおさえて、ホールにたどりつき、マリと最後のジルバを踊るとバッタリ倒れた。そして美代にすべてを告白した。徳も美代の真心に打たれ、町の人々にひれ伏して許しをこい、雅一とともにひかれて行くのだった。
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