森雅之
河田賢一
「満月(1949)」につぐ加賀四郎の企画で国警本部の大々的援助の下に製作される父子警察官の鉄血と愛情の物語。原作は警察関係者でこれを「音楽二十の扉」以来久々の笠原良三が脚色し、一昨年「花嫁の正体」を発表後沈黙を守っていた西村元男(日活濱大映東京撮影所分会委員長)がメガフォーンをとる。カメラの糸田頼一も復員後初の担当である。キャストは「グッドバイ(1949)」の森雅之と「わが子ゆえに」の小杉勇の初顔合せで、これに「虹男」の若杉須美子と植村謙二郎「毒薔薇」の美奈川麗子「どぶろくの辰(1949)」の伊沢一郎、船越英二らが出演する。
近ごろひんぴんと起る麻薬強盗事件の本拠が東京にあると判明したので大阪地方警察本部の河田賢一は、東京の国家警察本部の特別捜査班主任として栄転してきた。賢一の父恭平は三十年一日の如く東京の警察に勤務する老警官である。その車中賢一の座席の前にいた美しい娘が手提の中から包装された小箱をすられた。すったのは常習の金子三郎であったが、賢一を迎えに来ていた恭平の眼につき捕縛された。賢一はスリ同伴の父と久しぶりの対面をしたが、そのまま国警本部に急いだ。彼は冷徹な意志力と俊敏な頭脳をもって理詰の捜査方針を固めて行く人物であった。用務を終えて有楽街にある洋用品雑貨店「ギンガム」でタバコを買い父の寄ぐう先の井上家へ急いだ。途中井上家の長女信江に会ったが信江は「ギンガム」の筋向いにある雑誌社に勤めていた。賢一は歓待されて父の帰宅を待っていたが、当の恭平はT署に連行した三郎を取調べてみると小箱の中からは一ちょうのピストルが発見された。恭平はこの拳銃の裏にひそむ犯罪の臭いをかぎつけたが、三郎は単にスリだけの犯罪でこの事件には無関係とわかり、三郎の女の顔をよく覚えているという言葉を信じ、女を探し出して報告してもらうという条件で釈放した。恭平の帰宅と入れ違いに突発事件の通報で賢一は父との数年ぶりの夕食も出来ず、すぐ国警本部に登庁していた。賢一を待ちかまえていた事件は麻薬強盗団の病院襲撃事件で、ただちに容疑者達が送られて来た。中で黒と目される福村文三郎もがん強に口を割らないので、会議の結果福村を釈放して岡井、島谷の両刑事が尾行して一挙に本拠をつくことにする。一方T署からの報告されたけん銃の弾丸がかつて神戸の麻薬強奪事件の際の遺留弾丸と一致することが判明し、その拾得けん銃の取扱者がほかならぬ父恭平であると知った賢一は早速父を本部に呼んで、父のやり方が全く違法であるとするどく非難した。三郎を信ずる恭平も思わず激して経験とカンには間違いはないと反ばくする。下宿に帰っても恭平の人情論と賢一の純理論の対立は続いたが、間もなく恭平は三郎からつきとめた女が「ギンガム」の売子であったと報告を受ける。恭平は初めて自分が追い回しているけん銃事件が賢一の担当する麻薬強盗団の事件と関係のある事を直感した。恭平は信江の雑誌社から毎日「ギンガム」への眼を張っていた。福村の出入りから「ギンガム」が表面洋品店を装う麻薬団の本拠と判り、信江の手を通じて賢一に連絡をたのむと、恭平は岡井刑事と「ギンガム」の地下室へふみ込んだ。恭平は首かいの凶弾にたおれたが賢一ら武装警官隊により救われ、賢一の輸血によって生命をとりとめた、二ヶ月後恭平親子は年来の宿望である水入らずの生活をしみじみと味った。賢一と信江の結ばれる日も間近いでことであろう。
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