岡村文子
坂本信子
「青い山脈(1949)」の原作者“主婦之友”連載の石坂洋次郎の原作を、「青い山脈(1949)」の井手俊郎が脚本を執筆。監督は同じく「青い山脈(1949)」の今井正が当る。出演者は「愛染草」の水戸光子、新協劇団の岡田英次が「花の素顔」につぐ出演のみ、「青い山脈(1949)」の龍崎一郎、杉葉子、岡村文子らの他、御橋公らが久方ぶりで助演する。
坂本信子はある町の開業医で20年の長い間ばあやの茂子と二人暮しをしていた。彼女には容姿に自身が持てず、ただ感情で結婚して一人の男の子を生んだが夫は若い看護婦とかけ落ちしてしまった。それからというものは一人息子の英夫は、母の理解で塚田和子と交際し、結婚の約束もしたが、彼は戦争の犠牲となってしまった。それからというものは坂本先生は味気ない半生を、ばあやの茂子と看護婦の三上秋子の三人で医院を経営していた。しかし日常の唯一の慰めは塚田和子の訪問だけであった。だが和子にも近ごろ同じ町の黒川信造から縁談の申込みがあった。黒川は明るく感じのいい青年で、和子より弟の新助がすでに兄貴にきめてしまった。ところがある日和子が英夫の墓前で思い出の写真や手紙を焼いて新しい自分の出発に覚悟をきめていた時、目の前に英夫と生き写しの青年が立っていた。それは浅利安雄といって、英夫と異母弟で今は両親もなく異母兄を慕う心とヤミ買いの思惑をいだいてこの土地にやってきたのであった。この安雄の出現は和子に大きな動揺を与え、彼が坂本医院に滞在することになって一層激しいものとなった。しかも今はすべてを許した坂本先生は、この安雄を英夫同様に愛する様になった。彼は英夫の部屋、服しかも同じ容ぼうで和子に接近してきたが、安雄の服から発見したピストルによって、何かこの平和な生活に不幸をもたらすような気がしてならなかった。長い間一人で暮してきた坂本先生は、安雄が日がたつにつれて不良性を現してきても憎む気にはなれなかった。その上看護婦の秋子と安雄が抱擁している現場をみて、二十年前の夫の姿を想い慄然としたが、安雄だけは許して秋子はこの病院を去っていった。一方黒川は和子に二度目にあって和子が安雄に捉われている女心を知って、黒川の寛大な気持は彼女から去ろうと決心した。しかし黒川は坂本先生が安雄を思う情に、安雄を彼の勤め先の信用組合に世話してやったが。評判はよくなかった、しかし黒川はいつも彼の味方であった。坂本先生は母親に再びよみがえって、安雄のどんな罪でも許してやろう、その暖い愛情をもって彼の荒んだ心を直そう、そしてやがて坂本先生は和子と安雄との結婚を望むようになった。雪が降り始めようとするころ、東京から安雄の仲間がやってきた。安雄は今は、ハッキリと立直る気持になっていた。そして安雄の就職のお祝いに黒川、和子を呼んでパーティをすることになっていた晩の事。ついに安雄は姿を現わさなかった。彼の仲間に無惨にも殺されてしまったのである。そして英夫の墓標の側に真新しい安雄の墓標が立てられた。その前に詣する、坂本先生と黒川と和子。若い彼らを坂本先生は寂しく笑って見送るのであった。
坂本信子
坂本英夫
塚田和子
和子の父六助
和子の母元子
和子の弟新助
黒川信造
信造の妹ユミ子
三上秋子
吉本常吉
松山秀吉
村山君子
生方ヒデ子
茂子
山田
山田の妻
黒眼鏡の男
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