水沢螢
夕子
人生の岐路で別の道を選んだ“もうひとりの私”に出会うための旅に出たヒロインの姿を描く中編ファンタジー。よみうりテレビの映画番組「CINEMAだいすき!」のスタッフと「四月怪談」の小中和哉監督との出会いから生まれ、番組で九一年に放映されたオリジナル・ムービーを劇場公開。小中和哉が監督・原案・撮影・編集(共同)の四役を務め、脚本は「四月怪談」の関顕嗣が担当。16ミリ。
夕子は近頃、浜辺に立つ麦藁帽子の女の後ろ姿の夢を何度も見ていた。それは、人生の岐路で別の選択をした“もうひとりの私”であることを、夕子自身よく分かっていた。四年前、彼女がまだ学生だった頃、キャンパスマガジンの取材でイルカを飼育する研究者・吉田晃二に出会った。その時に撮った写真を絵葉書にして彼に送ろうとしたのだが……絵葉書は投函されないまま、夕子の手元にあった。だが、恐らく絵葉書を投函した、もうひとりの私を訪ねて、夕子は旅に出る。青年の行き先を辿り、南の島へ向かった夕子は、そこで晃二の妻になっている。麦藁帽子をかぶったもうひとりの自分に出会う。『幸せなのね』と語りかける夕子。もうひとりの自分は麦藁帽子を夕子に渡していつのまにか消えてしまった。それは、夕子が夢から決別した時だった……。
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