つゆき由美
里美
老女の世話にやってきたホームヘルパーの視線を通じて、東京・五日市のありようとそこで暮らす人々の姿を描くドラマ。93年に製作された多摩東京移管100周年記念作品。五日市町役場職員である自主映画監督・小林仁を中心に、スタッフ・キャストともおよそ地元の素人ばかりで完成させ、同町が主催する五日市映画祭で発表された作品が正式劇場公開された。
目まぐるしい都会の流れに何となくあくせく生きてきた里美は、ふとした気まぐれと高い報酬に誘われてホームヘルパーをすることになった。住み込みで働かねばならないその場所は、東京でありながら山深い街の五日市。駅から田舎道を歩いて里美が世話をする独り暮らしのイクを訪ねてみると、何とイクはややボケ気味で、トイレは庭先ですませてしまうし、風呂は近所の旅館へ勝手に入りに行く始末。イクを残して都心に移り住んだイクの息子は家庭機器を最新設備で整えたのだが、老人のイクには使いこなせないのだ。ほかにも、朝の6時には叩き起こされ食事を要求されるわ、突然山へ行くと言ってただ数時間を山の中で座って過ごすわ、買い物は遠くまで歩かされるわと、契約の時からは全く想像外の重労働であった。なんとか仕事を続けるうちに里美は、これまで何度となくイクの世話をしてきた近所の青年・孝志と知り合い、東京でありながら東京に憧れるという複雑な心理を抱えた街のありようを聞く。孝志の恋人の早紀も、漁協で働く孝志にもっと格好いい仕事への転職を勧めて五日市で生きるということを受け入れていなかった。やがて契約の一カ月が過ぎ、里美はイクの息子から契約更新を頼まれるが、金で全て片付けようとする息子の態度に腹を立て、話を断る。だが結局、里美はイクの元へ戻っていった。里美と孝志の仲の良さを早紀は嫉妬したが、五日市で毎年行われる自然人レースで元の鞘に収まり、また早紀も里美のおおらかな人柄を認めていくのだった。しのちゃんという、記憶の中にあるらしい人物とイクが会話するのにも慣れ、落雷で夫を失ったらしい山の中への散歩と休息も日常の一部となり、イクとの奇妙な共同生活は里美に新しい時間の流れを発見させていく。ある日、いつもの散歩の折りに里美は、イクがしのちゃんやイクの夫と出会う幻想を見て、暖かな風が通り過ぎていくのを確かに感じるのだった。
監督、脚本
製作、撮影
撮影、プロデューサー
音楽
美術、プロデューサー
編集
照明
録音
助監督
スクリプター
特別協力
[c]キネマ旬報社