桑畑昭子
八坂周子
東京と長野で遠距離恋愛をする恋人たちの姿を、過剰なドラマを排した日常的なタッチで描いた恋愛映画。監督は自主映画出身で、89年に8ミリ「青空」が劇場公開されている小林英彦。主演は「青空」の桑畑昭子と、「眠らない街・新宿鮫」の浅野久順。
八坂周子は数年来の恋人・秋山貴広と遠く離れて暮らしている。周子は東京の出版社で働いており、貴広は今は東京の本社から転勤になって、長野の支社に勤めていた。周子は仕事に追われる毎日を送っているが、週に一度の貴広との電話連絡は欠かさなかった。しかし、深夜に距離を越えて鳴り響く電話の向こうの貴広のかすかな応答の声が、次第に二人の関係に亀裂を作り始めていた。電話越しの彼の声は少しずつ変わり、やがて声さえも消えてしまった。電話越しの距離を埋めることのできなくなった周子は電車に飛び乗り、雪の残る初春の信州を訪れる。彼の住む部屋までやってきた周子が見たのは、疲れ果てた顔で心ここにあらずという感じで佇む貴広の姿だった。一年後、あれ以来貴広に会うこともないまま、周子は仕事に打ち込んでいた。そんなある日、周子は貴広から連絡を受け、一年ぶりに再会する。あれから仕事をやめて小さな事務所に移ったという貴広は、少し元気を取り戻していた。仕事の日々に明け暮れる周子は、長野の貴広の部屋を訪れた時のことをふと思い出していた。「彼の部屋からの帰り道、澄んだ空気が心地よかった」と。
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